がちゃS・ぷち

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No.3286
作者:ex
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2010-09-11 23:03:30
萌えた:5
笑った:0
感動だ:64

『鉄壁の薔薇のつぼみ』

「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:これ】【No:3289】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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☆★☆ 5月9日(月曜日) ☆★☆

(覚悟はしてたけど…予想以上に少ないわね)

 この日、11日振りに登校した蓉子は支倉令、島津由乃と共に、マリア様の前で通学してくる生徒たち、一人ひとりを迎えていた。

 リリアン女学園では、今年の4月29日が金曜日、ということもあり、5月2日、6日を臨時休校日とし、10連休とすることを決めていた。

 レベルVの発令以降、危険地域であるこの付近では、東京を脱出する人たちの数が激増していた。

 リリアンの生徒の家族は、魔法・魔術騎士に関係する家庭も多く、比較的多数の生徒が残るかと思われたのだが、ちょうどゴールデンウィーク期間後と言う事もあり、東京を脱出した生徒の家族が増えていた。

 これには、大きな理由があった。

 5月2日(月曜日)に出された異空間対策本部からの正式発表が原因である。

 異空間対策本部の発表で重要な点は3点。いずれも4月中のデータである。

@ 日本を除く全世界で、異空間ゲートの発生事例はゼロである。
A 武蔵野を中心とする半径50km以内のレベルV区域以外では、異空間ゲートの発生事例はゼロである。
B I公園を中心に半径10km以外では、魔物が異空間ゲートを通って出現した事例はゼロである。

 つまり、I公園から10km以内に魔物が出現しているだけであり、ここを外れれば、危険性は無い、ということである。

 政府は、この発表を受け、次の警戒態勢をとることを発表した。

@ I公園を中心に半径10km以内に緊急警戒態勢を敷く。
A その他の武蔵野を中心とする半径50kmのレベルV区域については、レベルUに規模を縮小し一ヶ月間継続する。

 この発表に伴い、
 I公園から半径10km以内の幼稚舎から大学に通学している児童生徒については、他校への臨時受け入れを奨励する、
 緊急の用務や、生活に必要な場合を除き、I公園から半径10km以内の立ち入りを制限する、
 などの措置が取られることになった。

 人々は、『I公園を中心に半径10km以内』 を 『レッドゾーン』と呼ぶようになっていた。

 リリアン女学園は、I公園から約6km。
 レッドゾーン内にあるため、幼稚舎から中等部までの児童、生徒は周辺の公立学校へ一時編入されることになり、5月9日からそちらの学校へ通学することになっていた。

 旧レベルV地域に展開していた魔法・魔術騎士団も、その9割がレッドゾーンに集結。

 リリアン女学園は比較的I公園から離れているものの、ここでさえ学校周囲に4チームの魔法・魔術騎士団が展開し、警備を行っていた。

「ひょっとしたら、半数にも行かないわね」
 由乃が、苦虫をかみつぶしたような顔でうなる。

「編入試験無しで他校への受け入れが認められたし、無理にレッドゾーン内の高校に通う必要は無いってことか」
 令も残念そうな顔であるが、その顔にはあきらめの色が浮かんでいた。

「それでも、リリアンに愛があったら転校なんてしないわよ!」
 由乃はいきりたつが、レッドゾーンに近づかなければほぼ安全、と言われた親が、子供の安全を考えるのは当然。
 やむを得ないことだと蓉子は思う。

「まぁ、緊急警戒態勢の間だけの仮転校だし・・・。解除されたら戻ってくるよ」 令が由乃をなだめる。

 もともと、リリアンの生徒のレベルは高くステータスとして認められている。
 他校に転校しても、その高校で十分実力は発揮できるだろう。
 そうは思っても、やはりさみしさは隠しきれない。

「さぁ、そんな顔しないで。 登校してきた生徒を安心させるのが私たちの仕事よ」
「はい、ロサ・キネンシス」

(それにしても、ちょっと・・・つらいわね)



 佐藤聖、鳥居江利子は、それぞれスクールバスの警備責任者なので、この時間はスクールバスで生徒を迎えているはずである。
 また、小笠原祥子も警備責任者としてスクールバスに乗っているが、こちらには福沢祐巳、藤堂志摩子の2人も途中から乗り込み、警備を手伝っている。

 今日の朝、祐巳の家に宿泊していた蓉子は、福沢家の周囲に居住する生徒5名を引率してリリアンに来た。

 祐巳と志摩子とは、別行動である。

 祐巳が、4月25日から始まったスクールバス3台体制の開始時に、
「今週から志摩子さんと一緒にお姉さまを手伝います。」
 と祥子の警備するスクールバスが祐巳の自宅前を通過するときに同乗すること申し出た。

 祥子は、
「先生方も2名乗車してくださるし、大丈夫よ」 と言ったがその嬉しそうな顔は隠しようがなかった。

 蓉子も姉としてそんな顔を見せられたら許すしかなかった。
 それに、祐巳と志摩子の戦闘能力にはすでに教師からも、「3年生でも勝てる人は少ない」とお墨付きを貰ったのも大きかった。



「乗ってくる人が少ないですねぇ」
 と、祐巳が寂しそうに祥子の顔を見上げながら言う。

「ええ、昨夜、各中隊の隊長からも、引越した人や仮転校した人が多くてこのルートに乗る生徒は半減した、と言っていたわ」
「ほんとに、リリアンの生徒、半分になっちゃうんですか?」
「まぁ、緊急警戒態勢の間だけだろうと思うけど。
 お姉さまも、ロサ・フェティダとロサ・ギガンティアの乗るスクールバスも生徒数が半減していると言ってたでしょう?」
「はい、ロサ・キネンシス、すこし寂しそうでした。でも、『お姉さまとしっかり警備のお仕事をして無事にリリアンに来なさい』って、送り出してくださいました」
「少ないといっても15名の生徒が乗っているのだから、しっかり警備しないとね」
「はい、お姉さま!」

 祥子たちの乗ったスクールバスには、15名の一般の生徒を中央部分に座らせ、運転手のすぐ後ろの席に祐巳と祥子、反対の最前列に志摩子が座る。
 最後尾の席に、山村先生、鹿取先生の2名が座って警備に当たり、
 魔法・魔術騎士団4名の乗った乗用車が、先導・護衛として30mほど前を走っていた。
 バスは、危険地域に近いK駅とM駅の前面道路を避け、S大学の前を通過するルートを通りリリアンに向かっていた。

 キキーーーー!!!
 急ブレーキをかけてスクールバスが止まる。
 バスに座っていた生徒たちが前の座席にぶつかって悲鳴をあげる。

「な・・・なんなのよっ!」
「危ないですわ!!」
「あ・・・あれ・・・っ!!」
 バスの運転手が引きつった顔で前方を指差す。 そこには・・・・・
「異空間ゲート・・・!」
 バスの進行方向のほんの50mほど前で空間が揺らめき、毒々しい色の空間が広がり始めていた。

 そして、そのゲートから出てきた魔物にバスのすぐ前を走っていた魔法・魔術騎士団の乗った護衛の乗用車が激突し・・・真っ赤な炎を上げて爆発炎上した。



「あれは・・・」 祥子の顔色が変わる。
「まずい! パピルサグよ!」
「お姉さま、わたしがっ!」 祐巳がバスを飛び出そうとする。
「待ちなさい!祐巳っ」
「でもっ!」
「あれを見なさい! 鎧のようなうろこ、それにさそりのような針、あれは・・・麻痺針よ」
「え?」
「あの針は高速で飛んでくるわ。その針に少しでも触れたら、どんなに丈夫な人でも麻痺してしまう。
 直接戦闘はまずい・・・・・・遠距離から魔法攻撃するしかないわ」

「小笠原さん!」 山村先生と鹿取先生がバスの最前列まで走ってきた。
「あなたたちは生徒を率いて逃げなさい!ここはわたしたちが!」
「いえ、先生たちではダメです! 剣も打撃もあのうろこには効果がありません!
 先生たちは他の生徒の安全を! ここは、わたくしが!」
「小笠原さん・・・」
「大丈夫・・・お任せください」 祥子は悠然と教師たちを見渡し宣言する。

「薔薇十字所有者の力・・・お見せします」
「お姉さま・・・、お手伝いします!」
「祥子様、わたしも!」
「ええ、祐巳、志摩子、行くわよ!」
 


 ザラリ・・・ザラリ・・・不気味な音。
 パピルサグの巨大な胴体がアスファルトに擦れ、ゲート周辺で不気味な動きを見せている。
 その数4体。
 パピルサグは、知性の感じられない醜悪な人面と強靭なうろこに覆われたなサソリの体を持つキメラである。
 肉弾攻撃を得意とし、やっかいなことに麻痺針で獲物の動きを止める、という得技を持つ。

 長距離の移動では鈍重な印象であるが、瞬間的な動きはおそろしく早い。
 鈍重な外見に惑わされていると高速で麻痺針が飛んでくる。

「祐巳、よく見てなさい。これが私の薔薇十字よ」 祥子は左手の手首に巻きつけた真紅の薔薇十字を天にかざす。

「ノーブル・レッド!」

 一瞬まばゆい光が祥子の左手首からほとばしる。

「これが薔薇十字最強の魔杖、『ノーブル・レッド』=『高貴なる真紅』。わたくしのパートナーよ」

 そこに顕現するのは、長さ40cmほどの、真紅の本体に煌く宝石をちりばめた一本の魔杖。

 4体のパピルサグは、その光に反応し、尻尾を高く持ち上げる。
「来るわ!」 目にもとまらぬ速さで押し寄せる麻痺針の嵐。

「テトラカーン!」
 祥子の呪文と同時に、虹色の物理反射障壁が3人を覆う。
 パピルサグの放った麻痺針は、その障壁に当たった瞬間・・・まったく同じ軌道を描いてパピルサグに反射。
 しかし、パピルサグは自分の麻痺毒には抗体があるのか、麻痺しなかった。

「祐巳、これがこの魔物から身を守る呪文。 あなた・・・出来るわね」
「で・・・でも、お姉さま・・・わたし魔法は・・・」
「やるのよ! あなたの力は何のためにあるの? おかあさまはなぜあなたに魔法を教えたの?
 みんなを守る力をあなたに持ってもらうためなのよ! さぁ、これを使いなさい!」

 祥子は、胸ポケットから小さな杖を取り出す。
「お姉さま・・・これは・・・」
「そう、あなたが子供の頃から使っていた杖よ。 あなたの過去を振り払うの! さぁ、勇気を出して!」
「で・・・でも・・・」
「なにしてるの!祐巳さん!みんなを守って!」 志摩子が叫ぶ。

(守る・・・守る・・・。そうだ、わたしはまた忘れていた・・・。おかあさま、わたし・・・やります!)

「来るっ!」 志摩子の悲鳴。
「「テトラカーン!」」 祐巳と祥子が同時に叫び、麻痺針を反射する。

「よくやったわ、祐巳!」 祥子がにっこりと笑う。
「できたわね。 さすが私の自慢の妹よ」
「は・・・はい!お姉さま・・・わたし、やります!」 祐巳の顔に決意の色が浮かぶ。

「いい?祐巳。 あなたは他に被害が出ないように今の反射障壁をかけ続けて。
 わたしは、こいつらを魔界に送り返すわ」
「わかりました!」 祐巳が返事をすると同時に祥子は一心に集中し呪文を練り始める。

「また来るっ!」 志摩子が叫ぶ。
「テトラカーン!」 祐巳が物理反射障壁をかけ、3人とその周囲を麻痺針から守る。 
「こいつら・・・学習能力がないの?」 志摩子があきれたように言う。
「違うよ・・・テトラカーン!・・・志摩子さん・・・こいつら、見て」

 パピルサグは、ゲート前を動かず、真横に4体並んでいる。
「こいつら・・・異空間ゲートをわたしたちから守ってるんだ・・・麻痺針はこっちを近づけさせないためだけの牽制・・・」
「じゃあ?」
「うん、多分、あと何体か出てくる・・・と思うっ・・・テトラカーン!」
「守ってるだけじゃダメだわ・・・これ以上増えたら、しゃれにならない。・・・わぁ」

「マハラギオン!」 練りに練った祥子の呪文が炸裂!
 真っ赤に燃え盛る高温の球体がパピルサグの頭上に飛翔し爆発する。
 4体のパピルサグが瞬時に燃え上がり、激怒のうめきを上げる。
 しかし、これだけの、高熱魔法を受けても、硬い鎧はびくともしない。

「祐巳!」 「はいっ!」
「今の呪文、見たわね!同時にいくわよ!」 「はいっ!」
「「マハラギオン!!」」 紅薔薇の姉妹二人による合体魔法。
「見なさい、祐巳!これが『灼熱獄炎』!!」

 ・・・・・・まさに、地獄の業火。 二人の放ったマハラギオンの高熱球がぶつかり合った瞬間、融合し昇華炸裂。
 『灼熱獄炎』の炎はパピルサグだけでなく、その周囲のアスファルトすら蒸発させる。
 アスファルトがそのまま真っ黒い劫火の燃料となり、さしものパピルサグの鎧を溶かす。

「・・・す・・・すごい」 志摩子が断末魔を上げながら崩れ行くパピルサグに呆然としていると、
「油断しない!」 祥子の声が響く。
「次が来るわ・・・大物よ!」



 くずれゆくパピルサグを一瞥もせず燃え盛る地獄の業火を気にすることもなく、その魔物はゲートを潜り抜け祥子たちの前に立つ。

「ま・・・、まさか・・・フラロウス!」
 その体は、人型。 しかし真っ赤な豹の頭が・・・胸の位置にある異形。
 さきほどのパピルサグの半分もないその体から発せられる恐ろしいまでの威圧感。

 現世にはめったに現れることのないその姿は・・・B級にランクされる、剛拳のフラロウスであった。

「こんな大物・・・神話でしか知らないわ」 祥子の声が緊張で震える。

 ソロモン72の魔王の1人、36の軍団を従える豹公。
 炎を自在に操つり、その鉄拳は防ぐことを許さない。

 いきなり、豹の口がグワッと開き、すさまじい炎が3人を襲う。
「セーフティ・ワールド!」 祥子の絶対防御呪文。 炎が障壁を舐め上げるが、祥子の呪文は障壁を突きぬけることは許さない。

 フラロウスは、一瞬身をかがめると、40mもの距離を一気に飛んできた。
 バリン!! セーフティワールドの障壁が、フラロウスの体当たり1発で崩壊。
 その突進の勢いを殺さず、赤き豹の鉄死拳が祥子に迫る。

「危ない!お姉さま」 瞬間、祥子の胴を片手で抱え、祐巳がフラロウスから飛び退く。

 志摩子が、両刃剣を振りかざし、フラロウスに挑む。

 ギィィン!ギィィン! 志摩子の剣とフラロウスの鉄死拳が交差する。
 2合、3合・・・志摩子の俊敏な動きは、フラロウスの反撃を許さない・・・・・・かの様に見えたが志摩子が突きを放った瞬間、恐ろしいスピードでカウンターが飛んできた。
 そのカウンターの正拳を頭一つ逸らしてかわした志摩子は、地面を蹴りフラロウスから距離をとる。

 着地の瞬間、その場からさらに横に跳んだ志摩子は着地と同時に再び地面を蹴り、前に跳んだ。
 刹那、彼女が立っていた位置をフラロウスの鉄死拳が行き過ぎる。
 かつてないほどに間合いを詰めた状態で、更に志摩子は一歩を踏み出した。
 まっすぐに向けられた剣は突きの構えとなり、腕に集中した覇気の爆発によってフラロウスの腹部に突き刺さる。

(やったか・・・っつ!)
 フラロウスは、腹に志摩子の両刃剣を突きたてられたまま、後方に飛んだ。
(まずい!)
 志摩子はすんでの判断で剣を手放す。
(あのまま、手を離さなければそのまま引きづられていた・・・)
 志摩子の頬を冷汗が伝う。 剣がなくなった志摩子にフラロウスに対抗する手段はない。

 フラロウスは、興味なさそうに自分の腹に突き刺さった両手剣をゾロリ・・、と抜き出すと、バキリッと握りつぶしその場に捨てた。

 フラロウスはゆっくり志摩子を見・・・再度体を沈みこませ跳躍の姿勢を見せた瞬間・・・

「ジオンガ!」 祥子の雷撃呪文。
 バリバリ!と 紫電の竜がフラロウスの体に絡みつき、その自由を奪う。電撃ショックによる”痺れ”でフラロウスの動きが止まった。
「祐巳!今よ!」
「はい! 「ジオンガ」『雷・魔神斬』!」 祥子の電撃魔法が祐巳の金剛杖に雷を纏わせる。神速の雷撃杖による切り落とし。

 フラロウスの赤き豹の額が裂け、さしものフラロウスも膝を突く。

 さらに祐巳の追撃 「震雷!」 電撃を纏った杖が高速回転による小さな竜巻を引き起こしフラロウスの左目を抉る。

「グォォォォォォッォオォォォオォ!」 フラロウスが苦しげな雄たけびを上げ飛び下る。

「ジオンガ!」 再度祥子の魔法がフラロウスを直撃しようとした瞬間、異空間ゲート付近まで飛び退いたフラロウスはゲートに消え、次の瞬間、異空間ゲートは自然消滅した。



「た・・・助かったの・・・?」 志摩子が疲れ切った顔でその場にへたり込む。

 目の前には、炎上し黒煙を噴き上げる乗用車。
 ドロドロに焼けただれたアスファルト。
 さらには・・・・・・体のほとんどを炎熱により崩壊したパピルサグであったものの残骸・・・・・・
 鼻がねじ曲がるほどの悪臭と恐怖に満ちた空間が志摩子の前に広がっていた。

「祐巳さん・・・」 「祐巳・・・・」 志摩子と祥子が、背を向け蹲っている祐巳の姿に声をかける。

 祐巳の左手には、先端が焼け焦げ、見るからにもう使い物にならなくなった小さな杖が握られていた。

 祐巳は、その杖を愛おしそうに見ながら、眉間にしわを寄せ、目に涙をあふれさせながらも笑顔をつくろうと・・・努力していた。

「お姉さま・・・わたし・・・」  祐巳の口元が震える。
「よくがんばったわ」 最後まで言わせず祐巳をその胸に包み込む祥子。
「いいのよ・・・もう・・・あなたには泣く資格があるわ」

「で・・・でもっ・・・ひっく」 祐巳は必死で笑顔を浮かべる。

「おねぇっ・・さまは、わたしの笑顔が好きだって・・・おばばさまと・・・笑うって・・や・・約束してて・・・
 お・・おっ・・おかあさまがくださった杖で・・・ううっ・・いただいた時はうれしくて・・・でももう壊れちゃって・・
 それに・・・胸が痛くて・・・嬉しいのに・・・苦しくて・・・で・・・でもっ・・・」

「いいの・・・いいのよ」 祥子は優しく祐巳の髪を撫ぜながら、愛しい妹が落ち着くまで抱きしめていた。

 しばらく呆然としていた志摩子が、やっと立ち上がる。
「祥子さま・・・祐巳さん・・・」

「志摩子もよくがんばったわ。 あなたがいなければみんなフラロウスの餌食になっていたかもしれない・・・ありがとう」
「祥子さまも祐巳さんも、みんながんばったから・・・。 祐巳さん、大丈夫?」

 ようやく、祐巳が祥子から離れる。
「えへへ・・・、恥ずかしいとこ見られちゃったなぁ」 その顔に浮かぶのは照れ笑い。

「もう・・・死ぬかと思ったわ・・・。なにあの魔物。 あんなの反則だわ」
「あれは、フラロウス・・・B級のとんでもない魔物よ。 あとでこれを見せるわ」
 と、祥子が左胸のポケットに付けられたバッジのようなものを見せる。
「これはアナライザー。 今の戦闘が録画・分析されているから」
「すごい・・・そんなものもあるんですね」
「このデータを小笠原研究所にも送って魔法・魔術騎士団に情報提供するの。今後のためにね」
 
 そのとき、ようやく周囲に魔術騎士団が3チーム駆け付けた。
 スクールバスに乗っていた生徒と教師も3人のもとに駆け寄る。
 
「祥子さま(さん)!祐巳さん、志摩子さん!!」 生徒たちの歓声。
「ありがとう!」 「すごい!」 「よかったですわ!」 「無事ですか!」 感謝と労わり、様々な声が3人を包む。

「えぇ、3人とも無事です。 皆さんもおけがはありませんか?」
 祥子がみんなを安心させるように穏やかな笑みで迎える。

「こ・・・こいつは、パピルサグ・・・しかも4体!」
「これを君たちが?」
 魔術騎士が驚いたように3人の少女を見つめる。

「はい、でも、これは前座でした」 祥子が答える。
「前座?」
「詳しいことはアナライザーのデータをお見せします。パピルサグは見た目と違い知能の高い魔物です。
 それが、こちらに近づきもせず、ただゲートを守っていました。まるでゲートが閉じるのを防ぐように。
 ・・・・・・そして現われたのは、フラロウスです」

「そんな・・・我々も神話でしか知らない魔物を撃退したのか・・・信じられん」
「あ・・・あなたは・・・」 祥子に気付いた魔術騎士のひとりが声を上げる。
「小笠原祥子さんですね?」
「はい」
「なるほど・・・リーダー、この方がリリアンの『爆炎の淑女』、生徒会役員にして薔薇十字所有者。あの小笠原祥子さんです」
「なにっ!・・・なるほど、それは失礼しました。そうですか・・・あなたが」

「わたくしだけの力ではありません。この・・・」 と祐巳と志摩子に視線を移し
「私の妹と、その友人の3人の力を合わせたからです。」

 魔術騎士と話している祥子を見つめるリリアンの生徒たち。
 その瞳は、紅薔薇の蕾と祐巳と志摩子に感謝と尊敬・・・・・・そして、誇らしげな感情で溢れていた。

☆★☆ 次回予告 ☆★☆
 祐巳ちゃんが小笠原家へ行きます。 クライマックス直前のひと時
 いよいよ、本編第1章も残り3回。 前半の最大のクライマックスが近づいてきています。



(コメント)
ex >文字の強調などができないので、迫力を出すのが難しいですね。上手く伝わるといいのですが。(No.18990 2010-09-12 05:52:54)

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