がちゃS・ぷち

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No.3289
作者:ex
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2010-09-14 19:05:42
萌えた:11
笑った:0
感動だ:55

『貴女は独りじゃない』

「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:これ】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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☆★☆ 5月10日(火曜日) ☆★☆

 小笠原研究所では、昨日の祥子、祐巳、志摩子と、フラロウス、パピルサグとの戦闘分析が行われていた。

 まず、研究員は異空間ゲートの出現・消滅について3点の違和感を持った。

 @ 異空間ゲートをパピルサグが守備する行動を示したこと。
 A B級の悪魔が出現したこと。
 B B級の魔物が出現できるような大型の異空間ゲートでありながら、自然消滅したこと。

 このことから、恐ろしい推論が生まれる。
 つまり、人間が異空間操作装置をつかって異空間ゲートの閉鎖操作を行えるように、魔物の方も何らかの方法で異空間ゲートの操作を行えるのではないか、というもの、さらに、
 異空間ゲートの出現は、これまで原因不明の世界の”揺れ”が引き起こしてきたと思われていたが、魔界からの干渉により異空間ゲートが現れるのではないか、と推測される、というのが小笠原研究所の推論である。

 次に、フラロウスのデータについて解析がなされる。
 これまで、B級の魔物である、と推測されていたが、やはりこれは正しい推論であったことが確認された。
 具体的な数値は不明なままであるが、
 生命力はパピルサグの5倍強、耐久力、スピードについても5倍から6倍の数値を叩きだしていた。
 絶対防御呪文であるセーフティワールドを薄紙を引き裂くように破壊したパワーは正確な数値を予測できなかった。
 しかし、電撃属性が弱点、と判明したことは明るい材料だった。

 最後に、研究所の職員が興味を持ったのは祥子の魔法の発展形についてである。
 
 最も驚きをもって迎えられたのが、2人合体魔法『灼熱獄炎』と、武器に魔法を纏った『雷魔神斬』と『震雷』だった。

 2系統の魔法を融合する「ファイヤー・ボルト」などは最近でこそ有名になってきたが、2人での合体魔法は例がない。
 また、魔法を武器に纏わせて攻撃する技など見たこともなかった。

 紅薔薇姉妹の絆による力でのみなしえる技なのか、他の者でも可能なのか検証が行われることになった。



 この日の放課後、リリアンでは追悼式が行われていた。

 昨日、祥子たちの乗っていたスクールバスの先導・護衛をしていた魔法・魔術騎士団の4名の死を悼み感謝の意をこめてミサが行われた。
 すすりなく声がお御堂に広がり、リリアンを代表してシスター上村の言葉がおごそかに響く。

「いつくしみ深い父よ、人は死の門を通って永遠のいのちに入ります。
 正義の心を持ちながら旅立ったわたしたちの姉妹を顧みてください。
 御子イエスの苦しみと死にあずかり、すべての罪から解放されて、み前に立つことができますように。
 聖霊の交わりの中で、あなたとともに世々に生き、支配しておられる御子、わたしたちの主イエス・キリストによって」

 全員が心をひとつにし、「アーメン」 と唱える。

 悲しみが、リリアンを覆っていた。



 夜8時の小笠原家。

 この日、3年半ぶりに祐巳が小笠原家のリビングにいた。
 リビングには、小笠原家の家族のほかに、小笠原研究所の幹部研究員数名も揃っていた。

「『清子さま』、お料理とてもおいしかったです。ありがとうございました」
 にこにこ微笑みながら祐巳が清子に感謝の言葉を告げる。

「そんな他人行儀な・・・ほんとうは祐巳ちゃんと毎日夕食を食べたいんだよ。
 部屋だって、以前のままにしているんだから」
 祥子の父、小笠原融が祐巳を見ながら、心苦しそうに答えた。

「そうじゃ。祐巳ちゃんは祥子の命の恩人じゃ。わしも心から感謝しておる。ほんとうにありがとう」
 小笠原家の当主、祥子の祖父からも感謝の言葉がかけられた。

「そんなに言っていただかなくても・・・それに命を助けられた、というのなら、わたしのほうこそ何倍も助けられています。いま、私が笑っていられるのは・・・『祥子さま』のおかげですから」
「祐巳・・・」
 祥子は、祐巳を家に連れてくることが夢だった。
 しかし、祥子自身がこの場に居心地の悪さを感じていた。
 まわりに、使用人たちの目がある以上、祐巳は『お母さま』や、『お姉さま』 とは言わないだろう。
 使用人たちの口から、親戚の各家にこのことが話されないとも限らない。

 それでも、あえて祐巳を小笠原家に招待したのは、研究所の幹部から、ぜひ解析のために祥子と祐巳の二人から情報を直接伺いたい、と要請されたから。

 しかし、この機会に、祐巳の成長した姿を家族に知ってほしかったから、というのも、祥子の中では大きな理由だった。

 祥子が昨日アナライズした画像は総て加工処理を施され、DVDになってこの場にある。

「では、昨日の模様をごらんいただきます。よろしくお願いします」
 祥子がDVDのスタートボタンを押した。



 リビングにある150インチの大画面に昨日の戦闘シーンが写る。

 祐巳の物理反射障壁で守られる祥子。
 祥子の呪文と合体魔法を発生させた祐巳の呪文。
 祐巳の『マハラギオン』の発動と同時に、焼け焦げ、使い物にならなくなった杖。
 セーフティワールドを突き抜けたフラロウスから祥子を助ける祐巳。
 祥子の電撃魔法を纏った金剛杖を振るう祐巳。

 DVDにより、小笠原家の家族に祐巳の献身的な行動が紹介される。

「祐巳ちゃん・・・」
 清子がたまらず祐巳を抱きしめる。
「あなたって子は・・・。ほんとにいつも驚かせてくれるわ」
「おか・・・清子さま、杖を・・・あの・・・わたしの杖を大事に持っていてくださったんですね」
「ええ」
「う・・・嬉しかった・・・。すごく、すごく嬉しかったんです。
 わたし、お・・清子さまをあの杖で傷つけたのに・・・。許されないことをしたのに・・・」
「いいえ・・・いいえ、祐巳ちゃん、わたしこそあなたに謝らなければならないわ」
「そんな・・・謝るだなんて」

 清子が祐巳を抱きしめてさめざめと涙を流す。
 祐巳は、困ったような顔をしながらも聖母のような笑みを浮かべていた。



 清子と祐巳の感動的な抱擁シーンに、集まった人々も目に光るものを浮かべる。

 ただ、この場の目的はもう一つ別にあった。

 『テトラカーン』『ジオンガ』『マハラギオン』という、普段めったに見られない魔法の解析について、である。
 この魔法については、祥子自身が『ノーブル・レッド』を顕現しない限り使用しないので、これまで具体的な解析は行われなかった。
 電撃系の魔法については、『サンダー』系、炎熱は『ファイヤー』系、氷結は『ブリザード』系が世に広まっている魔法である。
 魔法障壁も、『ウォール』か、『ワールド』系が普通である。

 祥子は、この常識を覆した。
 祥子の使った魔法は、これまで人間界で使用されている魔法とはまったく別系統の魔法だったのだ。

 この魔法の起源については、妖精王がからんでいる。
 古代から妖精王は、薔薇十字の管理者にして、人間を教え導く存在でもあった。
 
 普通の魔物やモンスターは『魔界』の住人であり獣である。
 しかし、古代から妖精は人間界に共存してきた。
 魔法を人間に教え広めたのも妖精であるといわれている。
 妖精は、人間を愛し、守り、ときに悪戯をし、人知れず歴史に介入してきた。
 それは、人間の知能の発達、生活レベルの向上、思想や道徳の発達に不可欠なものであった。

 祥子が薔薇十字の所有者になったのはわずか3ヶ月前。
 水野蓉子たちが生徒会長に当選し、祥子が『プティスール』から、『ブゥトン』になった後である。

 蓉子と江利子から実力に折り紙をつけられていた祥子と令は、薔薇の館の妖精王の試練に挑み、みごと妖精王から薔薇十字を授けられた。
 このとき、古代に人間が妖精から教えられた魔法とは別系統の、妖精の間だけで伝えられた純粋なる魔法を、薔薇十字と共に授けられたのだ。

 この魔法こそが、電撃魔法については、『ジオ』系、炎熱は『アギ』系、氷結は『ブフ』系となる。
 もちろん展開する魔導式、演算方法もまったく異なる。
 魔導式について言えば、人間の言葉とエルフの言葉の違い、といえばいいだろうか。
 演算については、レベルが違う。小学校の算数と、数学の博士課程の差くらい、と考えてもらいたい。
 
 ちなみに、先月から、炎熱の『アギ』『マハラギ』、氷結の『ブフ』『ブフーラ』は祥子自身と小笠原研究所の専門研究員の手によって魔法自体をアイテム化する研究を続けてきた。
 この研究の成果として、現在『マハラギジェム』と『ブフーラジェム』が試作されている。



 小笠原研究所の幹部研究員から解析のための質問が次々と浴びせられていた。

「それで、『アギ』系を2人で合体させれば『灼熱獄炎』になるんですね?」
「そうです、ただし、下位の魔法、『アギ』+『アギ』では、『マハラギ』程度の威力しかありません。
 それなりに高位の呪文でなければ、あれほどの威力は出せないのです」
「『ファイヤー』+『ファイヤー』でも、合体魔法にはならない?」
「はい。あくまでも合体魔法になるのは、妖精の間だけで使われる純粋な魔法だけ、です」
「どうして、妖精たちは最初から『アギ』などを人間に伝えなかったんだろう?」
「おそらく、古代では人間の発達過程として無理だ、と判断したのではないかと思います。
 あるいは、妖精王の認める人間だけにしか伝える気がなかったのか・・・」

「それにしても、祐巳さんは、妖精王から教えられたわけでもないのに、どうして『テトラカーン』や、『マハラギオン』を使えたんでしょう?」
「祐巳さん、どうしてあの魔法を使えたんですか?」
「えっと・・・。幼い頃から祥子さまの魔法は見てきましたから。
 祥子さまの教え方、とてもわかりやすく教えてくださるので、見様見真似ですけど・・・」
「わたくしは、祐巳とわたくしの間には、姉妹以上の絆があるからだ、と信じています。」
「祐巳さんは、ほかにどのような攻撃魔法を使えますか?」
「ちょ・・ちょっと待って!祐巳にその質問は・・・」
「いえ・・・祥子さま、大丈夫です。
 あの・・・『ファイヤー・アロー』と、『サンダー・ボルト』なら使えます。
 あと・・・その合体魔法も・・・
 『ファイヤー・ボルト』ですけど・・・。使えるのはそれだけです」
「なるほど・・・」
「辛いことを思い出させてしまいました。申し訳ありません」

「ところで、清子様ほどの魔法使いでも、『テトラカーン』や、『マハラギオン』は使えませんか?」
「いえ、多分使えると思いますわ。でも私の場合はだめね。
 どうしても今までの魔法の癖が残るので、瞬間的な・・・そう、戦闘のときに使えるか、というと難しいでしょう」
「柔軟な祥子さんや、祐巳さん、特に普通の攻撃魔法を知らない祐巳さんだから、素直に使うことが出来た、ということでしょうか?」
「なるほど・・・そう考えれば納得がいきますね。ただし、相当演算能力が高くなければ使いこなせないでしょう」

「ところで、『マハラギオン』以上の威力を持つ魔法はあるのですか?」
「ええ、『マハラギオン』はそれなりに高位ですが、中の上、といったところでしょうか。これ以上のものはたくさんあります」
「では、どうしてもっと高威力の魔法を使わなかったのですか?」
「演算に時間が掛かるからです。 あれ以上時間を掛けると危険だと判断しました。」
「わかりました」

「『マハラギオン』を使用したときに、祐巳さんの杖が焼け焦げましたね?あれはどうしてでしょう」
「まず、魔法自体が強力で杖が耐えられなかった、ということだと思います。
 わたしの『ノーブル・レッド』はもともと妖精王の管理するものですから、違和感なく使えます」
「では、祥子さん以外はあれ以上の魔法になると使うことが出来ない、ということでしょうか」
「一回ごとに杖をダメにしてもいいのであれば使えるかもしれません。
 ただし、どの程度の魔法まで杖が耐えられるか・・・使用者が非常に危険です
 わたしも、あんなふうに杖が焼け爛れるなんて想像していませんでした・・・祐巳、危険な目にあわせてごめんなさい」
「そんな・・・謝らないでください。祥子さまのおかげで私は助かったんですから」

「祐巳さんはどうして平気だったんでしょう?」
「祐巳ちゃんは、精霊に守られた、と考えてください。
 杖が焼け焦げたとき、祐巳の周囲には精霊の加護がありました」
「精霊に守られた?」
「ええ。祐巳ちゃんは日本最強の神通力を持つ一族の末裔です。
 祝部の娘は、精霊に愛され、自動的に魔力から守られているのです。『精霊結界』、といえるでしょう」
「清子様がそこまでおっしゃられるなら・・・。信じがたいですが」

「最後の質問ですが、祐巳さんの金剛杖に『ジオンガ』が帯電して攻撃したように見えました。
 あれは狙ってしたことでしょうか?」
「狙って、とは言えないです。ただ、そうなるかも、とは思っていました。
 妖精の魔法は武器に直接纏うものではありません。
 でも特殊な攻撃であれば、その攻撃に乗せる事が出来るようです」

「あの、『震雷』は、突きの技ですね。もう一つの『雷・魔神斬』はどんな技だったのでしょう?」
「祐巳、あれはなんていう技なの?」
「え〜っと・・・ただの真っ直ぐな切り落としで・・・
 でも、『雷・魔神斬』って祥子さまが名づけてくださったから、それでお願い・・・します?」
「もう・・・そこで疑問形にしないの!」



「今夜は、大変ありがとうございました。清子さま、お料理もミルフィーユもとってもおいしかったです」
 夜10時をすぎ、祐巳が小笠原家を辞そうとしていた。

「泊まっていって欲しかったんだけど・・・
 もう、あなたがこの家に帰ってくることを、誰にも反対はさせないわ」
 祥子が苦渋に満ちた顔でいう。

「祥子さま、そんな顔はなさらないでください。また遊びに来ますよ?
 それに、今日うちにはロサ・キネンシスと、ロサ・ギガンティア、それに志摩子さんが待っているので。
 明日もまたスクールバスでお会いできますから。 ではごきげんよう」
「ごきげんよう、祐巳」 なんとか寂しそうな顔を隠す祥子。

「では、松井、護衛を2人ほど乗せて祐巳ちゃんを送って頂戴」
「かしこまりました、奥様」 
「松井さん、お手数かけます。よろしくお願いします」 ぺこりと祐巳が頭を下げる。

「いいんですよ、祐巳お嬢様」 運転手の松井が祐巳に微笑みかける。

 祐巳が乗った小笠原家の車を何時までも清子と祥子は見送っていた。



 時間は少しさかのぼって夕方7時の福沢家。

 リビングには、水野蓉子、鳥居江利子、佐藤聖、支倉令、島津由乃の5人の薔薇の館のメンバーに、藤堂志摩子と、江利子の長兄の計7名が揃っていた。

「本日は殉職した魔術騎士のためにミサを執り行ってくださいましてありがとうございます。
 魔法・魔術騎士団を代表してお礼を申し上げます」

「わたくしたちを警護してくださった方々に感謝の意を捧げるのは当然のことです。
 リリアンの生徒も、魔術騎士の方々には大変感謝しております。
 今回は大変残念なことになってしまいました。なくなられた騎士団の方々のご家族のことを考えると胸が張り裂けそうです。
 騎士団の方々も、さぞ気落ちされているのではないですか?」

「はい、これまでも何人ものメンバーが怪我をしてきましたが、いっきに4名の殉職者が出たことで、
 騎士団の中でも動揺が広がっています」

 江利子の兄と、水野蓉子のお互いの感謝の言葉と追悼の言葉。
 ここに集まったメンバーも、すべて同じ気持ちでいた。

「昨日の事件については、メディアに働きかけて、リリアンの生徒の名前を出すことは控えさせていただきました」
「はい、お心遣い感謝いたします」

 山百合会は、今回の事件で、祥子、祐巳、志摩子の3人の名前がメディアに出ることを恐れた。
 たしかに、3人の活躍で被害の拡大を防いだのであるが、あの戦闘が公になれば、祥子、祐巳、志摩子の3人が英雄視されることになりかねない。
 その結果、魔物討伐の旗印にされてしまうかもしれない。
 それはとても危険なことだ、と蓉子は考えた。

 ただでさえ、3人とも周囲を振り返らせるほどの美少女である。

 凛とし、気高く圧倒的な美貌と抜群のスタイルで周囲の目をひきつける祥子。
 可愛らしさと明るい笑顔、見るものを微笑ませる小動物のように愛くるしい祐巳。
 西洋人形のような整った顔立ちに透ける様な白い肌、美しい所作を身につけた志摩子。

 メディアが救国のアイドル、現代のジャンヌ・ダルクとして持ち上げるには格好の素材ぞろい。
 その結果、この3人に課せられる期待は計り知れないものとなり、それだけ身の危険が大きくなる。

「パピルサグ4体を倒し、フラロウスを撃退したのは、魔術騎士団3チームの合同による戦闘だ、ということにしてあります。
 ただ、戦闘自体がS大学の近く、ということもあり目撃していた人もかなりの数に上ります。 
 噂・・・として、リリアンの生徒が魔物を討伐した、ということは広がるのはやむをえないでしょう」

「それは仕方がありません。ですが、メディアに載るかどうかで扱いはかなり変わります。
 いまのところは、これがベストでしょうね」

「はい。 ところで、騎士団の中にも、薔薇の信奉者が広がっています。
 フラロウスのようなB級の魔物を撃退することができる騎士団員なんて思い浮かびません。
 もともと、リリアンの卒業生も騎士団にいますので、薔薇様の名は一段高いステータスなんですよ。
 薔薇様方が、われわれと共に戦ってくれたら・・・そう願う騎士団員の数は半端ありません」

「もちろん、リリアンの生徒が危険にさらされたときには、私たちは守るために戦います。おたがいに頑張りましょう」



「ところで、藤堂志摩子さん」
「はい」
「昨日の戦闘で、あなたの両手剣が握りつぶされたのを見ました」
「はい・・・父から授けられた家伝の両手剣だったのですが・・・」
 志摩子が、悲しそうな顔でかぶりをふる。

「データを拝見いたしましたが見事な剣技でした。
 フラロウスと互角に渡り合ったあなたに、騎士団から尊敬の意をこめて剣をさし上げたいと思っています。
 遠慮はなさらないでください。
 これは騎士団の剣士たち全員の気持ちなのです」

「よかったわね、志摩子」
 蓉子が微笑みかける。

「あなたの力は、今後の山百合会に絶対に必要になるわ。私からもお願いします。剣を受け取って」
「そんな・・・ロサ・キネンシスからそこまで言っていただけるなんて・・・
 わかりました。ありがたく頂戴いたします」

「ありがとう。騎士団のメンバーも喜びます。週末にでも騎士団本部に足をお運びください。
 とりあえず名刀も何本か揃っています。 気に入っていただける剣があればよいのですが」
「はい、土曜日に伺います。よろしくお願いします」
「それから・・・福沢祐巳さんの魔杖ですが」
「はい」
「昨日の戦闘で使用不能になったのがわかりました。騎士団本部に1本、誰も使わない杖があるのです。
 少し厄介な杖でして・・・。もし祐巳さんに使っていただけるならそれもさし上げたいのですが。
 できれば、お二人で騎士団本部においでになりませんか?」
「はい、祐巳さんと二人で伺います」
「では、お待ちしています」



「志摩子さん、いいなぁ。騎士団から剣をいただけるなんて、名誉なことよ」
「ええ。でも、折られた両手剣、使いやすかったから、残念だったわ」
 由乃と志摩子が、台所でお茶の準備をしていた。

「由乃ちゃん、紅茶4つと、ブラックでコーヒーをひとつね。
 あと、あなたたちの分持ってきてね」
「は〜い」
「令の持ってきたケーキ、おいしそうね」
「チョコレートたっぷりの超濃チョコムースケーキです。ビター風味で、甘さ控えめにしてます」

 まじめな話の後に、おいしいお茶とケーキでくつろぐ7人。
「ここ、居心地いいなぁ」
「祐巳さんの家だからね」
「ん?それ、何か関係あるの?」
「住んでる人に、家が似てくる、ってもんよ」
「そんなの初めて聞いたわよ」

「祐巳さん、ってみんなに愛されているんですね」 江利子の兄が感心したように言う。

「「「「「もちろん!!」」」」 ここだけは全員の声がハモった。



☆★☆ 次回予告 ☆★☆
 ついに、前半の最大のクライマックスです。
 少々残虐なシーンがありますが、ご了承ください。


(コメント)
ex >清子さまのミルフィーユ、令さまのケーキがやっとでました。 あと松田さんに「祐巳お嬢様」といって欲しいために書きました。(No.18999 2010-09-14 19:07:35)
secgcallo >decadal attributable comparable(No.19000 2010-09-15 10:23:18)
通りすがり >面白いです。続きが楽しみです。そういえば「松井」さんですよね? 大正野球娘の小笠原家ですと「松坂」さんになりますけれど(No.19002 2010-09-15 23:38:28)
ex >通りすがりさま、ご指摘ありがとうございます。早速修正しました。それにしてもアメフト君にしても松井さんにしても、うろおぼえって恐ろしいです。(No.19005 2010-09-16 20:14:15)

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