がちゃS・ぷち

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No.3314
作者:ex
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2010-10-06 21:09:14
萌えた:1
笑った:0
感動だ:82

『手のひらで包み込む明日への希望と夢を』

「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:これ】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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~ 9月17日(土) 夜 福沢家 ~

「せっかくの3連休が台無しだね~」
「この緊急事態に、なにのんびりしたこと言ってんのよ」

「聖様、蓉子様、お茶はなんにしますか~?」
「紅茶でお願いね」 
「わたしはブラック~。濃い目ね」
「は~い」
「いやね。 ここに来ると落ち着くじゃない? どうも緊張感が・・・」
「・・・それはそうだけど・・・。 あ、祐巳ちゃん、ありがとう」
「ん~。いい香り。 ブルマンかな?」
「正解です~。 先日お姉さまが持ってきてくださったんですよ」
「さすが祥子。 いいセンスだわ」
「はい!」 
 やはり、姉を褒められると嬉しい祐巳。

「明日は、志摩子さんと令さまのお見舞いに行く予定なんですけど、蓉子様と聖様もごいっしょしますか?」
「そうね・・・。明日には令も全身麻酔から目覚めるかもしれないし。 行ってみましょうか」
「あ~、わたしはパス。 山梨に走る日だから。 すっぽかすとおばばさまが怖い」

 聖は、5月に大型バイクの免許を取り、それで毎週山梨に走っていた。
 それは、祐巳と志摩子が東京に帰ってからも続いていたのだ。
 状況の報告なら電話でもいいのでは? と思って聞いてみると、
『そなたの声、口調、顔色、そのすべてを知ってこそはじめて事実に触れることが出来るのじゃ』 とのことである。
 
「ま、毎週温泉に入れて、美味しい食事もいただけるからいいんだけどね」

「じゃ、明後日にしますか? 明後日も休みですし」
「いや、早いほうがいいよ。 蓉子たちは明日行ってきて。 わたしは山梨土産を持って明後日行くことにする」
「わかりました。 由乃さんも一緒に行く?」

「祐巳さん・・・。 あの・・・。 蓉子様!」
 先ほどまで会話に語らず、押し黙っていた由乃が思いつめた顔で蓉子を見る。

「だめよ」
 蓉子が由乃から顔を逸らせて否定の言葉を投げかける。

「どうせ江利子に断られたんでしょ? 江利子が言わないのに私が教えるはずないじゃないの」

「うっ・・・」 気丈な由乃の目から一筋涙がこぼれる。

「どうすれば! どうすれば強くなれるんですかー!!
 時間が無いじゃない! わたしは急いで強くならないと・・・いけないのにっ!」
 
 気の強い由乃が泣いている。 弱い自分を責めて泣いている。
 その姿を見た祐巳は・・・
 (あのときのわたしと同じだ・・・)
 江利子の兄がパピルサグの尻尾に貫かれたあの日のことを思い出していた。



「由乃ちゃんは、私が送っていくから安心して」
 聖は、俯いている由乃の肩を抱くようにして、タクシーに乗り込む。
「聖様・・・。 お騒がせしてすみませんでした」
「いや・・・。強くなりたい、って気持ちはわかるから、ね。 でも少し冷静にならないと出来ることもできなくなる。
 それに、体術を極めるんでしょ? まずはそれからよ。 そうね、わたしから一本取ったらわたしが方法を教えてあげるわ」
「えっ?」
 不思議な顔の由乃。 ところが・・・
「聖様! お時間のあるときでかまいません! 是非・・・わたしに体術を教えてください!」
 もともと、こんな身近に体術の天才が居たのだ。

「よろしくお願いしますっ! 師匠!」
 ガバッと聖に頭を下げて頼み込む由乃。
「おいおい・・・、『師匠』、はないんじゃないかな?」
「あ・・・でも」
「わかった、わかった。 ほかならぬ由乃ちゃんの頼みだ・・・。 じゃ空いた時間だけだけど特訓しますか~」
「ありがとうございますっ! よろしくお願いいたします!!」

 こうして由乃は聖の押しかけ弟子になった。



 魔法・魔術騎士団が戦闘において取るフォーメーションはいくつかある。

①前衛2名×後衛2名の攻撃的フォーメーション。
 これは、D級の魔物に対するときや、C級の魔物でも1~2体と数が少ないときに有効である。
 チームメンバーが少ないため、意思疎通も単純迅速になり役割分担が決まってくる。
 速攻で魔物たちをなぎ倒すときに優れている。

②前衛3名×後衛3名のバランス重視型フォーメーション。
 通常は、この6名のチームが基準であり、様々な攻撃パターンが研究されている。
 主なパターンとしては前衛2名による同時攻撃のWスラッシュや、前衛1名、後衛1名がそれぞれ連携をするスタンスマッシュなど、陣形を生かしたものが多い。
 蓉子の取る陣形も基本はこのパターンを踏襲している。

③前衛3名×後衛3名×リザーブ3名の守備的フォーメーション。
 この陣形は、こちらの人数に余裕があり、敵が強大で少数のときに選択される。
 攻撃パターンはバランス型と同じだが、こちらの場合は戦闘継続が不可能になったメンバーが出た場合、すぐにリザーブが入る。
 そして、リザーブが入った瞬間に撤退を開始。
 次の9名チームと交代する、というものである。
 守備的フォーメーションをとる場合、最低でも3チームが必要で、主戦チーム9名、交代チーム9名、撤退準備チーム9名で編成され、全27名による中規模の軍隊である。

 今回、魔法・魔術騎士団が選択したのは、③の守備的フォーメーションだった。
 4辺に中規模の軍隊を各3個置く。
 これに必要な騎士団員数は324名。 これを昼夜三交代制。 972名が必要。

 9月16日の戦闘において、団の中核であった30数名の猛者を失った騎士団にとって、これが現状、直接防御戦闘員として集められるぎりぎりの人数だった。

 魔法使いと結界師は39名で一つの「十二菊花氷柱結界」を作り続けなければならない。
 これを3重に張り、昼夜三交代制で行っている。 これに351名が必要。

 とにかく人が足りない。
 魔法・魔術騎士団は悲鳴を上げていた。
 一刻も早くこの地獄のような 『待ち』 の時間をなくしたい。

 そのためには、『ピラミッド攻略』 ・・・ 無理難題とも言える課題が大きくのしかかっていた。



 9月17日、18日、19日の3日間、暗黒ピラミッドに動きはなかった。
 魔王4体が、9月16日に現れてから3日・・・

「なぜ、何も現れないんだ?」
「まさか、何もする気はないのか?」

 しかし、禍々しい妖気を放つピラミッドはそこにあり、恐怖の時間は過ぎてゆく。
 安易な希望的観測は持ちようもなかったが、何も起きない時間が過ぎていくのはそれはそれできつい。

そして・・・4日目の午後、9月20日に再度4辺から4体の魔物が出現する。

 北の一辺から現れたのはダンタリオン。
 東の一辺から現れたのはセーレ。
 西の一辺から現れたのはデカラビア。

 ここまでは、前回と同様の魔物であった。

 そして、今回南の一辺から現れたのは、

「・・・魔王、ベリアル・・・」

 きっと誰もがその名を聞いた瞬間、恐怖におののくその名。
 一人で50の軍団を率いる地獄の大いなる王。
「偉大公爵」「虚偽貴公子」「暗殺神」などの異名をもち、「 買収、暗殺、支配 」 を司ると言われる。
 炎獄の覇者にして炎の剣を持つその姿は人型である。

「まさか・・・。こんな段階でこれほどの魔物が・・・」
 騎士団に絶望の悲鳴が響く。

 防御重視で臨んだ9名のチームは炎の剣の一振りで弾き飛ばされる。
 9名のうち、前衛・後衛の6名でラッシュをかけようとした瞬間のカウンター。
 炎の剣から噴出した暴虐の炎が9名全員を飲み込み全身に大火傷を負わせる。

「第2波!!」

 騎士団から第2チームへの出撃命令。
 しかし、第2波のチームは出撃できない。
 恐怖に支配され、その場から一歩も動けないのだ。

 北でも、東でも、西でも、騎士団のチームは必死に魔王たちと激闘を繰り広げている。
 かなわないまでも、その進撃を食い止めるべく、チームを次々に入れ替え、波状攻撃を仕掛けることで押しとどめている。

 しかし・・・。 さすがに南に現れたベリアルはレベルが違った。
 9名1チームを炎の剣一振りで沈黙させ、次のチームを一睨みで釘付けにした。
 そして、表情も変えず、結界に近づく。

「まずい! 結界を守れ!!」

 その号令に飛び出そうとする騎士団員であるが、足が動かない。
 本能に刻まれた恐怖が、一歩足を踏み出すことを許さないのだ。

 ・・・そして、ベリアルは結界に近づき、炎の剣を一振り。
 バババァァーーーーー!!
 一振り・・・・。 たった一振りでセーフティワールドの絶対防御障壁が砕ける。
 次の瞬間、結界内に、一気に氷の礫が飛散する。
 十二菊花氷柱結界。 この結界はただの結界ではない。
 衝撃を与えられた瞬間、その衝撃の発生地点に向かって結界自身が絶対零度の攻撃を行うのだ。

 セーフティワールドを砕いた魔王ベリアルに絶対零度の氷の礫が襲い掛かる・・・。
 しかし、相手が悪すぎた。
 ベリアルの纏う炎獄の翼がその氷の礫を一気に蒸発させる。

 まったくベリアルには攻撃した効果がない・・・。 と思われた瞬間、
 ボォォォーーーーン! と一気に蒸発した水蒸気により、爆発が起きる。

 水蒸気爆発を引き起こすトラップ。 さしものベリアルもこの爆風に数十メートル飛ばされる。

 驚きの顔を見せるベリアル。 その体にダメージはなさそうだが、思いもよらぬ事態に戸惑っているようだ。

 だが、ニヤリッとその顔に楽しいことを見つけたような残酷な笑みが浮かぶ。

 しかし、次の瞬間、ベリアルはきびすを返し、ピラミッドの中に戻っていく。

 そのタイミングに合わせ、他の3辺から出現した魔王たちもピラミッドへと引き上げていった。



「よっ・・、はっ・・、とっ・・、うっ!」
「ほら、ほら、ちゃんと避けて! 3発程度じゃ先に進めないよ!」

 由乃を囲む3方から、テニスボールが飛んでくる。
 聖、祐巳、志摩子の3人が由乃に向かってボールを投げつけている。

 由乃は3人から投げつけられるボールを体捌きだけでかわしているが、なかなか20発以上に進めない。
「一人100発。 300発のボールをすべて避けることが出来たら次に進むからね」

 由乃は体術を極めるべく聖の特訓を受けていた。
 祐巳と志摩子は由乃の特訓につき合わされ、ひたすらボールを投げ続けている。
 この訓練をもう1時間以上も続けていた。

「ぜーっ・・・。はーっ・・・。はーっ・・・」
 ついに息を切らし由乃はへたり込んだ。
 4月から必死に体術の鍛錬に励んできた由乃であるが、もともと心臓に疾患があり、長時間の運動に慣れていない体は持久力に問題があった。

 それに、この3人から投げつけられるボールは恐ろしく早い。
 最初の1球目は目で見て避けることが出来ても、その次は見えない場所から投げつけられるのだ。
 体力の切れた由乃は3球かわすのでさえやっとの状態になっている。
「支倉流の歩舞術を最大限に活用! それと自分自身の覇気で飛んでくるボールをすべて予測! それを極めれば300発くらい軽く避けれるはずだよ!」
「は・・・、はい!」

 もう体力が限界に近い。 精神力でなんとか立っているが体が言うことを聞かない。
 次に投げつけられたボールをかわそうとした由乃であるが、足がもつれ床に倒れこむ。
 ・・・急速に意識が遠くなっていった。

「由乃・・さん・・」 祐巳が心配そうに由乃に近づく。
「祐巳ちゃん、例のあれ、お願い」
「聖様!・・・。由乃さん、少し休ませたほうが・・・」
「祐巳ちゃん。 由乃ちゃんがここまで頑張ってるんだ。 下手に同情するのは由乃ちゃんに失礼だよ」
「・・・はい。 わかりました・・・。 『癒しの光っ!』」

 『フォーチュン』の宝石が純白に輝き、由乃の体を暖かく包みこむ。

「う・・・、あ・・ありがとう、祐巳さん・・・。 むっ!!」
 由乃は祐巳に礼をいい、一声気合を居れて立ち上がる。

「よし! 次っ!次っ! よろしくお願いいたします!」

 由乃の特訓は続く。
 祐巳も志摩子も由乃の根性に報いるべく、ボールを投げ続けていた。



~ 9月20日 夜 福沢家 ~

「今日、4日ぶりに魔王が現れて戦闘が行われたわ」
「騎士団は魔王を撃退できたのですか?」
「撃退したというか、相手が勝手に帰っていったそうよ。 魔王に一矢も報いられなかった。
 そして、騎士団の死者9名。 重傷者12名、軽傷者20名。 このままじゃ防衛の人数が足りなくなるわ」
「そんな・・・」
「しかも、今回出てきた魔王が別格。 南からベリアルが現れた」
「うへっ・・・! またすごいのが出てきたね」
「ええ・・・。でも今回のことで、また一つ予測されることがある」
「それは、なんでしょう?」

 福沢家のリビングでは、騎士団本部から戻った蓉子と、久しぶりに福沢家に来た祥子、由乃との特訓から帰ってきた聖、祐巳、志摩子の3人が食後のお茶をしながら話し合いを行っている。
 祐巳と志摩子が山梨から帰ってきてから、福沢家が山百合会の会合場になっている状態であった。

 江利子は令の付き添いでK病院に入り浸りだし、由乃も特訓を終えたら令の看護にK病院に行っている。

「希望的観測ではあるけど、やはりソロモン王は魔王たちを信用していない。
 自分の手の中で動かせる範囲しか使役しない、ということね」

「どうして、それがわかるのですか?」

「まず、ソロモン王を除く魔王たちは、もともと現世なんて興味がないのよ。
 ソロモン王だけは、数千年前の呪いに取り憑かれてるみたいだけどね。
 これまで出てきた魔王たちは無表情に戦っていた。
 まぁ攻撃を受けたフラロウスとアンドロマリウスだけは感情が見えたけど」

「あ・・・。そういえばそうですね。 興味なさそうに戦っていました。
 人間との力の差が圧倒的すぎて、顔色も変わらないのかと思っていましたけど」

「思い出してみて。 フラロウスが怒りの感情を出したとき、すぐに魔界に帰って行った。
 あれは、逃げ帰ったのかと思っていたけど、使役したソロモン王に撤退するように操られた、とも考えられる。
 プライドの高い魔王が、いくら不利な状況でも逃げるとは思えない」

「はい」

「そして、今日の戦いで、ベリアルが戦いの最中にニヤリと笑った。
 次にものすごい攻撃が来るかと思ったけど、なにもしないで魔界に帰っていった」

「どうしてでしょう?」

「魔王たちが自分の感情のままに現世で暴れまわるのをソロモン王は歓迎していない、と思えるのよ。
 だから魔王が何かに興味を持って感情を表すと、魔界に帰るように操っているのではないか、と思われる」

「まるで、将棋の駒のように魔王を使っているんですね」

「ええ。 だからこそ、そこに付込んでいけば攻略の糸口が見えてくると思うの」

「具体的にはどうするんですか?」

「こちらからピラミッドに進入する。 まず間違いなく出てくる魔王は1体ずつ出てくることになるわ。
 これまでも、魔王が2体同時に同じ場所に現れることはなかったでしょう?
 ピラミッドの4辺に同時に出てくることはあっても、それぞれが顔を合わせることはなかった。
 多分、これが使役の条件になっているはず。
 魔王を一体、一体個別撃破して、その都度、地上に帰って戦力とアイテムを補充していけば攻略できるのではないか、と思うの」

「でも、騎士団にピラミッドに進入するだけの力は・・・」
「祥子。 わたしは覚悟を決めたわ。 私が行く。 他にピラミッドへ進入出来る戦力はもうないでしょう」
「お姉さま・・・」
「例のアイテムが完成して、令が回復したら、薔薇十字所有者、あなたたちにもう一度聞く。
 わたしと共にピラミッドに行く覚悟があるかどうか。 考えておいて頂戴」

 水野蓉子の全身からすさまじい闘気が溢れている。
 リリアン史上最強の薔薇。 『無敵なるもの』=水野蓉子がついに決心を固めていた。



~ 同日 深夜 祐巳の寝室 ~

 コンコン、と控えめな音で祐巳の部屋のドアが叩かれる。
「祐巳さん?」
 小さな声で志摩子が祐巳に呼びかける。
「ん~? どうしたの志摩子さん」
 パジャマに着替えていた祐巳がドアをそっと開ける。
「あの・・・。相談があるんだけど」
「うん、入って」
 志摩子を部屋に通し、クッションを勧める祐巳。

「あのね・・・。蓉子様、少しあせっているんじゃないかと思うの」
「うん・・・。私も少しそれは感じた。 でも、毎日騎士団の人が亡くなっている。
 蓉子様、優しいから、きっとそれに耐えられないのよ・・・。 もう誰にも止めることはできないと思う」

「でも・・・。 薔薇十字所有者がいくら強いって言っても相手は魔王よ? 無事ですむとは思えない。
 人数も5人だし。 騎士団から何名かついていくでしょうけど・・・」

「志摩子さんはどうしたいの?」
「あのね・・・。 わたしたちも微力だけど同行したほうがいいのかも、って考えたの」

「うん・・・。わたしもそれは考えた。 でもね、きっと蓉子様はお許しにならない、と思う。
 江利子様も同じ。 お姉さまもきっと許してくれない。 聖様は・・・わからないけど、ね」

「じゃぁ、どうすればいいの?」
「わからないよ・・・。 薔薇十字、かぁ」
「わたしたちも、由乃さんの言うように薔薇十字を取りにいったほうがいいのかしら?」

「わからない・・・。わからないんだ・・・。 でも何か私たちに出来ることがあればしておきたい」

 祐巳と志摩子の悩みも深い。 結論が出ない話し合いは日付が変わるまで続いた。




~ 9月30日(土) I公園 暗黒ピラミッド前 ~

 水野蓉子、鳥居江利子、佐藤聖、小笠原祥子、支倉令の5人はI公園の騎士団仮設本部に居た。

「本当に行ってくださるんですか・・・」
 騎士団の団長が苦渋に満ちた顔で蓉子に言う。

「あなた方のような学生に・・・。 こんな形で頼ることしか出来ない私たちが情けない。
 しかし、もう騎士団に余力はありません。
 すでに、9月16日以降の戦死者だけで70名を超えました。
 このままではジリ貧です。 騎士団の闘志も落ちてきています。 どうか・・・どうかご無事で・・・」

「団長・・・。 わたしたちは妖精王に認められた薔薇十字所有者です。
 精一杯戦ってきます。 それにたくさんのご支援をありがとうございます。
 それに、4名も同行してくださる方をつけていただいて感謝します」

「水野さん、よろしくね」
「栄子センセ・・・。 栄子先生もご一緒してくださるんですか?」
「ええ、医療班も必要でしょ。 怪我をしたら大変だもの」
「ありがとうございます」

 今回、薔薇十字所有者のパーティーには騎士団のチームリーダークラスが3名、そしてリリアンの養護教諭である保科栄子先生が同行することになった。

 薔薇十字所有者5名は前日ピラミッド攻略隊を結成し魔王に挑むことを決めていた。
 学園長、シスター上村はさすがに反対をしたが、現状、薔薇十字所有者以外に魔王に対抗できる戦力は見当たらない。

 苦渋の判断で、リリアンの薔薇達がピラミッドに進入することを許した。
 本来なら自分自身がピラミッドに同行したい、そう思うシスター上村であったが、足手まといになることは目に見えている。
 そのため、医療班として抜群の実力をもつ保科栄子に同行することを要請したのだ。

 保科栄子もリリアンOGである。
 並みの騎士団員よりも戦力はある。
 なにより、生徒を守るその意志はリリアンの教職員の中でも1,2を争うほど高い。
 シスター上村が絶対の信頼を置く教職員の一人であった。
 
「とにかく、無理をしないで進みます。
 小笠原研究所で開発された 『妖精の翼』 もあることですし。
 どうせ、一回の戦闘ですべてが終わるとは考えていません。
 危険が迫ったら、とにかく一回戻る。 それを繰り返していきます」

「ええ、あなたたちが最後の希望なの。 絶対にあなたたちを失うわけにはいかない。 わたしたち大人ができるのはあなたたちを守ることなの。
 いい? もしも私たちの誰かが倒れても、あなたたちは絶対に脱出するの。 あなたたちさえ生きていれば希望は残る。
 それだけは忘れないで居なさい」

「栄子センセ・・・」

 蓉子たちは、保科栄子の覚悟の言葉に身が引き締まる思いだった。
 それだけに、『全員で生きて帰る』 その思いを強くするのだった。

 『妖精の翼』・・・ それは、小笠原研究所で開発された 『ルーラ』 の呪文を応用したワープアイテムである。
 このアイテムが完成し、支倉令が戦列に復帰したことで薔薇十字所有者のピラミッド攻略の準備が整った。

「では、行ってきます!」

 蓉子たち9名は騎士団長に出発の挨拶をし、ピラミッド攻略に向かう。

 果たして、その行く道に希望はあるのか・・・。

 暗黒のピラミッドは、その妖気を周囲に撒き散らし静かに立っている。

 ついに、ピラミッド攻略の一歩が、『リリアンの戦女神』たちによって切って落とされた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
あとがき
 これまで拙い作品を読んでくださった読者の皆様、ありがとうございました。
 これで、このシリーズの第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」は終了です。
 第3部ではいろいろな謎を解いてきました。
 第4部ではついにクライマックス。 魔界での戦いが始まります。
 第4部はかなりの長編になります。 これからも、よろしくお願いいたします。
ex




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