がちゃS・ぷち

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No.3277
作者:ex
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2010-09-04 00:18:04
萌えた:17
笑った:24
感動だ:20

『いたたまれなくて何故にそんな笑ってる』

「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:これ】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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☆★☆ 4月15日(金曜日) ☆★☆

 1年生の剣術模擬訓練が始まってから5日。
 1年生の武道場はあきれた状態になっていた。

 結局、AチームからIチームまでの9チームとも、10秒と持たず、志摩子と祐巳のペアに敗れ去った。
 このため、2チーム(8名)vs2名という模擬戦に移行し、
 5日目の今日から、3チーム(12名)vs2名での戦闘訓練が行われることになった。

 3チームが相手では、さすがにこれまでのように”楽勝”というわけには行かなかった。
 いや、勝てる見込みを志摩子は見出せないでいた。

 玉のような汗が志摩子の頬を伝う。
 志摩子と祐巳は、互いに背を預け対戦相手に対峙している。

 しかし、その人数が違った。
 祐巳は、正面、左、右の三方をそれぞれのチームリーダーと対していた。
 3名ともチームリーダーに選ばれるだけあってかなりの実力者である。
 ただ、祐巳はその場を一歩も動かず、ヒット&アウェイ戦法で牽制・後退を繰り返す相手から志摩子を守っていた。

 そして、志摩子のほうは、三身一体で組まれた3チームに、同じようにヒット&アウェイ戦法を挑まれていた。

 9人vs1人。
 ただでさえキツイ状況なのに、組織的に組まれたチームは3人の力が3倍になるどころか10倍にも20倍にもなる。

 先頭の相手の木刀をはじき、止めを刺そうとした瞬間に横から鋭い突きが襲う。それをすんでの所でかわし、残った一人を横なぎになぎ払う、とした瞬間、最初の相手が袈裟に切りかかる。
 それを払いのけ、正眼に構えると、すっと2チーム目の3人に交代し、またヒット&アウェイ戦法を仕掛けられる。

 志摩子と祐巳のペアにこれまで散々コケにされてきた残りの生徒たちは、得体の知れない力を持つ祐巳を避け、実力は抜きん出ているものの、自分たちと同じ延長線上にいる志摩子を最初の標的としたのだ。

 5分・・・10分・・・絶望的な時間が過ぎていく。
 一人で3人を相手にしている間、残りの2チーム6人は休憩できているのだ。
 持久力を奪う作戦。

 (もうだめ・・・腕が上がらない・・・)
 一瞬、志摩子の集中力が切れかけ、意識が遠のきそうになる・・・・・
 それを見逃さず、3本の模擬剣が一斉に志摩子を襲う。
 (ここまでか・・・)

 志摩子が、あきらめかけた瞬間、
 カラララァァァーーーーン、と、志摩子を襲った3本の模擬剣が、宙を舞い床に転がる。

 「あれぇ? こんなものなのかな?」
 と、どこまでも能天気な声に、きっ!と祐巳を見上げる志摩子。

 「まっ!・・・まだまだよ!それより、この状況、なんとかしなさいよ!」
 あまりといえば、あまりな言葉に、温厚な志摩子でさえ怒りの声をぶつける。

 「志摩子さんの動きはね、型にはまりすぎてるんだよ。どの流派か知らないけど・・・。うん、完成度でみたら賞賛に値すると思う。
 けど・・・なにぶん、応用力が足りないね。一対一ならすごく強いんだろうけど」

 そう言いながら、祐巳は手にしていた長さ150cmほどの棒をトン、と一度床につけ・・・・・・・
 次の瞬間、志摩子の周囲にいた3人組の横をすり抜けたかと思うと、床上わずか5cmのところを水平に薙ぐ。
 その一撃で、3人がバランスを崩すと、前方に跳躍、棒の上部で一人の脇を打ち、反動で返る棒先でもう一人の胴を薙ぐ。

 その洗練されたしなやかな動きは、動体視力に優れた志摩子でさえもすべてを追いきれない。
 ものの数秒と持たず、12人の生徒が蹲り、得物を取り落とし、呆然とした表情で祐巳を見ていた。

 「ば・・・・化け物・・・・」
 一人の生徒が呟いたその言葉。
 一瞬、祐巳の脳裏に焼け爛れた清子と魔法を放つ自身の姿がよぎる。
 顔色を変えた祐巳に、武道場の空気が凍りついた気がした。



 その凍りついた空気を拭い去るように、ちょっとおどけて祐巳が前に出る。

 「え〜〜っと」
 ポリポリと頬をかきながら、ちょっと、困ったような微笑を浮かべる祐巳。
 そして、恐怖を顔に浮かべる同級生たちを見て、ちょっとため息。

 「いまの、そんなに難しいことじゃないんだよ?みんなもやり方がわかって・・・そうだなぁ。ちょっと時間かかるけど修行すれば出来るようになるよ」

 「まさか・・・」
 「信じられませんわ」

 じゃぁねぇ、と、さらに一歩前に進む祐巳。
 「さっきの私の動き、解説するね」

 まさか。なにかタネでもあるの?急に全員の顔から恐怖が消え、好奇心旺盛な女生徒の顔に戻る。

 「まず、棒を床に突いたでしょ」  うんうん、と全員が頷く。
 「で、その勢いで前方に跳んだ」  うんうん。
 「そのまま、身を低くして棒をグル〜〜って」  うんうん。
 「で、回り終えたら、前方宙返り」  うんうん。
 「宙返りの途中に、2回ひねりを入れて」  うんうん。
 「着地と同時にその場で1回転」 うんうん。
 「で、真上にジャンプしてから着地と同時に今度は後方宙返り」 うんうん。
 「宙返りの間に、今度は1回ひねりを入れて」 うんうん。
 「着地したら、また棒を床について、から同じ動きの繰り返し」 うんうん。
 「で、終わりだよ」 うんうん。

 「「「「「で、できるか〜〜〜!!」」」」」  絶叫が武道場に響いた。

 「あれ?」って顔をしている祐巳に、全員が毒気を抜かれ、今度は笑いに包まれた。

 しかし、みんなは知らない。
 祐巳の手首に白い刺繍糸で編みこまれたミサンガがあることを。



 武道場では、訓練終了後、全員で清掃が行われる。
 リリアンに通うお嬢様であるがゆえに、その清掃は迅速丁寧。

 ちり一つ落ちていない綺麗な状態に戻したところで、祐巳は志摩子を含め37名の生徒の中心にいた。

 この5日間、祐巳の得体の知れない棒術に挑んできたものの、まったく相手にならなかったことで、妬み、憧憬などを持っていた生徒たちであるが、祐巳ののほほんとした態度や、天然の明るさに惹かれ、笑いの輪が起こっていた。

 「ねぇ、祐巳さんの動き、全然見たことないのだけれど」
 「そうそう、どうしたらそんなすごい動きが出来るのかしら?」
 「だいたい、さっきの説明じゃ、全然わからないですわ」
 口々に疑問を投げかける同級生たち。

 「えっとね、見たことがない、ってことないと思うんだけど・・・」
 困ったように、祐巳が笑う。
 「だって、前転でしょ」 うんうん
 「それに、後方宙返り」 うんうん
 「ね、見たことあるでしょ?」 

 「「「「だから〜〜〜〜〜!!!」」」

 「祐巳さん」 志摩子が困った顔をする祐巳に声をかける。

 「動きの解説じゃなくって、どうしたらあんなに目にもとまらずに動けるか、ってことを皆さん知りたいのだと思うけど」
 うんうん!!!
 全員が一斉に頷く。

 「あっ!」と、声を上げ、ぽんと手を叩く祐巳。

 「そっちか〜〜〜。え〜っとね・・・」

 祐巳の解説によればこうだ。

 まず、ここにいる全員、覇気が使える。それが前提。

 子供の頃から、剣術に親しんできた生徒ばかりなので、有段者も多く、基本はみんな出来ている。
 その上で、覇気をまとって戦うので超人のような動きが出来る。

 覇気で全身を覆うことにより、ある程度の攻撃であれば跳ね返すことの出来る体にする。
 覇気は手にした得物に流し込み、得物を強化し、攻撃力と防御力を上げる。
 (ただし、模擬戦闘中は安全のため、教官の指示がない限り覇気で強化した得物での攻撃は禁止されている)

 ここにいる全員は、そこで止まっている。
 覇気があるから、そこで通常の相手には勝ててしまうのでそれに安心してそこから進まない。
 それが、応用力がない、と言うのだと。

 では、どうすれば祐巳のような動きが出来るか。

 ・・・・・・祐巳に解説させると、わけがわからないので、志摩子の注釈がつく。

 「まず、覇気を短時間でON/OFFできるように、訓練します」
 「1秒間に16回から32回程度できるようになればいいそうです」
 (ちなみに、祐巳自身は「気にしたことないけど、80回から100回くらい(できる)かなぁ」 だそうだ)

 「全身に纏った覇気をいったんOFFし、つま先に全身を覆い尽くすだけの覇気を集中し、爆発させます」
 (祐巳によれば、「パッて体を楽にするでしょ。で、つま先にエイ、どーん、ってするの」 だそうだ)

 「爆発させた瞬間に、全身の覇気をONし、前方に跳躍します」
 (祐巳によれば、「ど〜んってなったら、体をギュッてして、ぴょ〜んって飛ぶの」 だそうだ)

 「跳躍、着地の瞬間に、棒に武器強化とは別種類の覇気
  (闘気をなくす感情を与える覇気?これは志摩子でも解説不能)
 を流し込み、体を低くして、全身の覇気をOFF、つま先に覇気を集中して爆発力で回転します」
 (祐巳によれば、「戦いをやめよう、って心の中で相手に言いながらぐるぐる〜ってまわるの」 だそうだ)

 ・・・・・・なんだか、ばかばかしくなってきた志摩子。

 「祐巳さん・・・・」
 「ん? 解説ありがとう、志摩子さん。続けていいよ」
 「わたし、これ以上無理・・・」
 見れば、周りの生徒たちもあきれている。

 「だから〜、次は、体をパッてするでしょ、で、ど〜んっていくの。で、体をぐるぐるじゃなくてギュルギュルってして・・・・」
 「もういい、やめて・・・っていうか、止めろ」

 「志摩子さん、怖い・・・」

(○○と天才は紙一重って言うけど・・・天才って、こんなものかもしれないわねぇ)
 もはや、脱力感しかない志摩子。

 「では、みなさん、とにかく覇気のON・OFFをすばやく出来るように訓練しましょう、そうじゃないとこの・・・」
 ジト目で祐巳を見ながら、
 「・・・・・・天才棒術家には手も足も出ないわ」

 「・・・・・・志摩子さん・・・いま、失礼なこと考えたでしょ」



 放課後、薔薇の館。

 薔薇の館の新入りである祐巳と由乃が並んでお茶の準備をしていた。

「祐巳さん、手際いいわね〜」
 ちょっと感心したように由乃が言う。

「ん? 3年も水仕事してたら、さすがにこれくらいは、ね」

「え!祐巳さん、えらいなぁ。中学時代からずっとおうちの手伝いをしてたのね」
 思いっきり由乃の勘違いであるが、「まぁね」と笑って返しておく。

「わたし、体が弱くて、水仕事もほとんどしたことなかったんだ。でも、これからなんでも頑張ろうと思うの」

「前向きだね、由乃さん」

「あったりまえよ〜」
 ビシッと、指を突き出す由乃。

「う、冷たい」
 由乃の指先に残っていた水滴が祐巳の鼻にあたる。

「由乃さん、手にカップ持ったまま横を向くと危ないよ」
「祐巳さん・・・そこ?ねぇ。いま突っ込むとこ、そこなの?」

 薔薇の館は、のほほんとした雰囲気に包まれて、子猫2匹がじゃれあっていた。



 まもなく、三薔薇様をはじめ、山百合会の幹部が全員集合。

「先日話した、武蔵野郊外の異空間のことだけど」
 と、水野蓉子が会議の口火を切る。

「武蔵野を中心に半径50kmの範囲で、警戒体制の発令が予定されているそうです」

「異空間は消滅したんじゃないの?」

「それが、どうも武蔵野一帯に”揺れ”が頻発しているみたいなの。余震みたいなものか、それとも、大規模な”揺れ”の前兆なのか、判断がつきかねているという事です」

「それで?」

「本日、前回の異空間の発生場所から100mほど離れたところで小規模の異空間が発生し、通学途中のリリアンの生徒も魔物を見たそうです。
 幸い警戒に当たっていた魔術騎士の方々のチームが撃退して事なきを得たんだけど」

「かなり、危険な状態になっている、ということね」

「ええ、新入生はまだ経験も足りないし、もし魔物に遭遇したら一大事になるわ。
 そこで、明日のホームルームで全生徒に通学時の武器携帯許可が指示されます。
 それと単独での登下校は禁止されることになりました」

「武器はどこまで許されているの?」

「銃火器を除くすべて、よ」

「それって、周辺住民全部に、ってこと」

「そう。武蔵野周辺はかなりの危険地域になった可能性がある、ということ。危機保安レベルV発令よ」

 さすがに、薔薇の館にも緊張が走る。

 危機保安レベルは、レベルTからレベルVまで定められている。

 レベルTは、通常監視の定期巡回パトロールを1日1回程度行うもので、これは日常的に行われる。

 レベルUは、通常監視の定期巡回パトロールが2〜4倍に増やされ、さらに、魔法・魔術騎士団に待機命令の発令、異空間操作装置の即時発動ができるように待機されている。

 レベルVになると、魔法・魔術騎士団の対魔討伐専門チームの監視に加え、自警団による生活レベルでの警戒と、異空間を発見した場合に、異空間対策本部への連絡が義務として課せられる。

 もちろん、異空間が出現し魔物やモンスターによる被害が出た場合には、保安レベルを飛び越えて緊急警戒態勢が敷かれることになる。

 異空間の発生→消滅のあとは、保安レベルUが発令され、異空間発生監視システムでの監視の後、保安レベルTに落とされるのが通例で、保安レベルVになる、ということは数年に1回しかない。

「5年?いや6年ぶりのレベルV発令か」
「前回は子供だったんで危機感がなかったわ。親同伴で通学した記憶があるくらいね」
「山百合会でも、自警団を発足させる必要があるわね」

「ええ、忙しくなるわよ。あなたたち・・・仕事しなさいよ」



 山百合会での会議の結果、緊急連絡網の体制を整えることになった。

 3年生2名、2年生2名、1年生2名の計6名で、1小隊を作成。3年生がチームリーダーとなる。
 6名の小隊を5つまとめて中隊とし、30名の中隊を作る。
 さらに、30名の中隊を6つまとめて180名の大隊を4つ作る。

 この4つの大隊の責任者を、鳥居江利子、佐藤聖、小笠原祥子、支倉令とする。
 水野蓉子は、4つの大隊を束ねる統括責任者とする。

 6名1チームの小隊は、登・下校の通学をまとまって行い、単独行動は禁止する。
 全員の下校を確認した後、小隊のリーダーから、中隊→大隊へと連絡を行い、水野蓉子が最終確認を行う。

 以上のことが決定され、土曜日のホームルームの後、講堂で全体集会を開催し、発表されることになった。
 また、チーム編成表、通学時の注意事項、携帯武器の範囲、魔法・魔術騎士団と異空間対策本部への緊急連絡先の書かれたパンフレットも至急作成されることになった。

 この日、薔薇の館では、チーム編成、パンフレットの作成に追われ、終了する頃には下校時間ぎりぎりになっていた。



(コメント)
ex >第2部を書き進めています。構想にぶれは無いのですが、一話一話がどんどん長くなってきています。2部で終わらせる予定が、3部構成になるかも。伏線を拾い上げつつ、さらに伏線をはるという悪循環に^^;(No.18959 2010-09-05 13:03:09)

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