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誰も止められない  No.3604  [メール]  [HomePage]
   作者:杏鴉  投稿日:2011-12-21 13:32:07  (萌:4  笑:0  感:18
これは以前掲載したお話を別視点から描いたものです。
先にこちら↓をお読みいただかないと、理解しづらい迷惑な代物です。

『祐巳side』
【No:2557】【No:2605】【No:2616】【No:2818】【No:2947】【No:2966】【No:3130】【No:3138】【No:3149】【No:3172】(了)

『祥子side』別名:濃い口Ver.
【No:3475】【No:3483】【No:3486】【No:3540】→これ。





――そこはとても暗い場所だった。
何も見えない。何も聞こえない。
そんな場所に祥子はひとりきりで立っていた。

恐怖や不安は感じない。
身を包む闇はあたたかで、むしろ祥子の気持ちは安らいでいた。
ただ、ここがどこなのか、どうして自分がここにいるのかはまったく分からなかった。

闇雲に歩きまわってもしかたがないと判断した祥子は、しばらくその場で周囲の様子を探ることにした。

しかし時間が経っても目は闇に慣れてくれず、何も見えないままだった。
祥子は見ることをあきらめ耳を澄ませた。

――声が聞こえる。

笑い声だ。小さな子どものくすくす笑う声。
祥子が声の方に振り返ると、姿の見えない子どもは笑うのをやめてしまった。
また静寂が戻ってくる。

「誰かそこにいるのかしら? いたら返事をしてちょうだい」

答えはない。
――と、祥子の背後から、それもかなり近いところからさっきと同じ笑い声がした。
驚いて振り返る。今度は笑い声は消えなかった。

すぐ傍にいるはずだが暗くて姿が見えない。
祥子は不愉快に思った。
笑い声にはバカにしたような響きがあり、それは間違いなく祥子に向けられている。

「そこにいるのは誰なの? こそこそ隠れていないで出てらっしゃい」

祥子の苛立ちを込めた声にも、見えない子どもは怯まなかった。
それどころか、可笑しくてしかたがないというように大声で笑いはじめた。
闇の中を睨みつけるようにして目を凝らす。
しかし何も見えない。

「卑怯なまねはおやめなさい」
「ひきょうなのはアナタのほうでしょう?」
「――っ!?」

ふいに目が潰れるほどの眩い光に襲われた。
反射的に顔をそむけてまぶたを閉じる。
けれど見えた。
一瞬だったがはっきりと笑っている顔が見えた。
あれは、あの子どもは――

なんとか目を開けようと祥子が苦労していると、突然地面が激しく揺れはじめた。
よろめく祥子の耳にまたあの笑い声が響く。

「ふふっ。じゃあね」
「お待ちなさい!」
「またすぐにあえるわ」





朝は苦手だ。
血圧が低いせいか、なかなか目が覚めてくれない。
しかし今朝はぼんやりしている余裕はなかった。

昨夜私はいつもどおりベッドで眠った。
だから朝になって目覚めるのもいつもどおりベッドの上のはずだ。
それなのに今、妙な浮遊感とぐらぐら揺れる視界が私を襲っている。
我が身に降りかかっている不条理な出来事の説明を求めて、私は声をしぼり出した。

「……何をしているのですかお母さま」
「何って、祥子さんがいつまでたっても起きないから、起こしてあげたんじゃない」

自分でも驚くほど不機嫌な声だったというのに、母は楽しそうに答えた。
抱き上げている私を解放しようともしない。

「普通に起こしてくださればいいじゃありませんか……っ!」

悪ふざけをしている母から逃れようと私はもがいた。
自分が今、どういう状態なのかを失念して。

「さ、祥子さま危ないっ!」

慌てた祐巳の声でハッとなる。
が、もう遅い。
バランスを崩した母もろとも私は祐巳に向かって倒れかかってしまった。
……これだから朝は嫌なのだ。

幸い祐巳にケガはなかった。
とはいえ、一歩間違えば大変な事態になっていた可能性だってある。
以後こんな事がないよう母にはきつく言っておいた。
私としてはまだまだ言い足りなかったのだけれど、必死で宥めようとする祐巳に免じて五割ほどは飲み込む事にした。

……眠っている時に、何か夢を見ていたような気がする。
内容は忘れてしまったけれど。




朝食を取りながらさり気なく祐巳の様子を窺ってみたが、特別変わったところはない。
昨夜のことを意識しているのは私だけのようだ。
……あたりまえか。
祐巳は私の邪な想いなど知るはずがないのだから。

昨夜はどうかしていた。
朝の光のもと、たっぷりの睡眠を取った頭で考えるとそれは明白だった。

――私は太陽を手に入れた。

なんて傲慢で軽薄なのだろう。
私は自分の本性を隠し、祐巳の優しさに付け込んだのだ。
そして祐巳をひとりじめにできたと勘違いして、いい気になっていた。
どうしようもない愚か者だ。

けれど大丈夫。
こんな愚か者に大切な祐巳が害されることはない。
簡単だ。現実を見ればいい。
そうすれば、身の程を知ることができる。

「今日の検査には私とお母さまとで行くのですか?」
「……えぇ。そうなるわね」
「そうですか」

私ひとりの感情で思うままにできることなど、高が知れている。
ずっと傍にいてもらうことだってできない。
私には小笠原家の事情が、祐巳にだって祐巳の事情があるのだから。
けれど……、

「ねぇ、祐巳」
「なんですか? お姉さま」
「私が戻るまで、ここで待っていてくれる?」

せめて今日だけは。
今日だけは皆の太陽ではなく、私だけの太陽でいてほしかった。
そうしたら諦めるから。
もう手を伸ばしたりしないから。

不思議そうな顔をしていた祐巳は、やがて日だまりみたいに笑うと「お帰りをお待ちしています」と言ってくれた。
その後どういうわけか祐巳は顔を赤くしてあたふたしはじめる。

意味が分からない。
あいかわらず面白い子だ。
本当に飽きない。
大切な、私の可愛い……妹。

「あなたは本当に落ち着きがないわね」

素直じゃない私のそんな言葉にも祐巳はにこにこしている。
そんな顔で見ないでほしい……。
今日だけ、という決心が早くもグラついているのを私は感じていた。

さっさと病院へ行こう。





病院に着くと松井がいつものようにドアを開けてくれた。
……彼の協力で家を抜け出し、祐巳に会いにいったのはいつだっただろう。
実際にはそれほど経っていないのだろうけれど、もうずいぶん昔の事のように思えた。
毎日病院には松井の運転で来ていたはずなのに、なんだか久しぶりに彼の顔を見た気がする。

「松井」
「はい。どうかされましたかお嬢さま」
「いつもありがとう」
「――自分にはもったいないお言葉です」

帽子のつばをグッと引き、松井は照れくさそうな顔を隠した。
困らせたかったわけではないので、私はそれ以上彼を見ないようにして足早に病院内へと向かった。




いつもの検査が終わっても、今日は帰っていいと言われなかった。
私の身に起こっている不可解な現象を説明できる人も、治療できる人もここには居ない。
毎日大げさな装置で身体のあちこちを調べるものの、けっきょくは前日と比べてどれだけ身長と体重が減少しているか記録を取っていただけだ。
けれど今日、初めて再検査をすると言われた。

私と母の二人に問診が行われ、昨日から今日にかけて何か変わった事はなかったか、食事の内容や今朝起きた時の様子はどうだったかを事細かに聞かれた。

医師たちは探していたのだ。
――私の若返りが止まった理由を。





もうすぐ祐巳の待つ家に到着する。
病院で長い時間をかけてあれこれと調べてはみたけれど、突然若返らなくなった理由は不明のままだった。
若返りをつづけていた日までとの違いといったら、祐巳が傍にいてくれた事くらいだろうか。

祐巳のおかげで久しぶりにまともに食事を取り、夜も満足に眠れた私は体調の良さには気が付いていた。
けれどまさか若返りが止まっているとは思わなかった。

いや、気が付かない私も母たちもどうかしているのだ。
最近では毎朝見て分かるほどに私は若返っていた。
それなのに今朝は昨日の私と見分けがつかなかった。
病院の検査でも、前日と比べて身長体重共に誤差の範囲でしか変動がなかったそうだ。

車内でずっと母が浮かれている。
祐巳のおかげで私の若返りが止まったと。
ずいぶん短絡的な発想だ。
けれど私も、その考えがあながち間違っていないような気がしていた。
……姉バカだろうか。

とにかく私の不可解な若返りは不可解なまま止まった。
今はそれが一時的なものではない事を祈るだけだ。




「お帰りなさい!」

玄関の扉を入ってすぐ、祐巳が可愛らしい声で私を出迎えてくれた。
子犬のような愛らしさを振りまく祐巳に、つい文句を言ってしまいそうになる。
……お願いだから私の決心を鈍らせないでちょうだい。

「祐巳ったら。部屋で待っていてくれてよかったのよ?」
「だって、少しでも早くお姉さまに会いたかったから」

無防備な笑顔に脱力してしまいそうになる。

「……ばかね」
「えへへ」

まったくこの子は……。

「祐巳ちゃん! ありがとう!」
「へっ?」

突然、母が祐巳に抱きついた。
ビシリと身体が固まる。

「……お母さま。何をしていらっしゃいますの? はしたないからおやめください」
「嫌よ。だって私は祐巳ちゃんにお礼を言いたいのだもの」
「お礼ならもう言ったじゃありませんか。さっさと祐巳を放したらどうです? 玄関でみっともない」
「まだ言い足りないからダメ」
「……」
「あ、あの、小母さま……? 私、小母さまにお礼をおっしゃっていただけるような事しましたっけ……?」

私の不機嫌を察したのか、祐巳が困ったような顔で母に尋ねた。
すると、あろうことか母は祐巳をさらに強く抱きしめだした。
眉がつり上がるのが自分でも分かった。

……どうしてこんなにイライラするのだろう。
あぁ、そうか。祐巳がまったく嫌がっていないからだ。
一応、私の視線を気にしてはいるようだけれど、祐巳は母の腕の中で抵抗するでもなく締まりのない顔をしている。

「……祐巳。あなたずいぶん嬉しそうね?」

みっともない。
実の母親にヤキモチを焼くだなんて。
おろおろしながら母から離れる祐巳を見て自己嫌悪に陥る。

母から私の検査結果を聞いた祐巳は「よかった」と泣きだしてしまった。
……この場に母や使用人たちがいてくれて良かったと心から思う。
もしも二人きりだったなら、私は何をしでかしていたか分からない。

祐巳が来てくれたおかげだとはしゃぐ母の言葉で、祐巳の表情が徐々に暗くなっていく。
期待に応えられなかったらどうしよう、なんて考えているのだろう。根が真面目な祐巳らしい。
気にしなくていいのに。

「あなたは私に何かをしてもらえると期待したから妹になったの? 傍にいる事にしたの?」
「そんなっ……! 違います! 私はただお姉さまが好きだから、だからお傍にいたかっただけで……!」

必死になって言う祐巳が可愛くてしかたがない。
……私を好きだという祐巳の気持ちと、私が祐巳を好きだという気持ちには、おそらく決定的な違いがあるだろう。
だから蓋をすべきなのだ。こんな邪な想いには。

「私もそうよ。これまでも、今も、これからもね」

ちゃんと姉の顔で言えたと思う。
それなのに私の言葉を聞いた祐巳の表情が一変した。
妙な期待をかけられ、プレッシャーに震えていたさっきまでの祐巳はもういない。
強い意志を感じさせるまなざしが私を捉えている。

そんなふうに見ないでほしい。
これまで何度思ったか知れないが、今ほど強烈に思ったことはない。
あまりに真っ直ぐなそのまなざしの前に、私は視線を逸らす自由すら奪われている。

……今日だけ。今日だけだから。

私は怪しまれるほど長い間、祐巳だけを見つめていた。




今日の終わりは実にあっさりと訪れた。
この家に、もう祐巳はいない。
帰ってしまった。
せめて夕飯までは、と思っていただけに少し……いや、かなりショックではあった。

けれどしかたがない。
祐巳には祐巳の生活がある。
私とは違い、学校にも通わなければならない。
いつまでも私の相手をしているわけにはいかないのだ。

……これで良かったのかもしれない。
今日だけ、なんて守れたかどうか分からないのだから。
祐巳が傍にいたら、たぶん私はまたこの手を伸ばしてしまう。
邪な想いを巧みに隠し、太陽をひとりじめにしようと画策するに違いない。

別れ際の祐巳を思い出す。
申し訳なさそうな、何か言いたそうな顔をしていた。
笑って送り出してあげれば良かった……。
そうすればあの子も笑ってくれたかもしれないのに。

本来の用途どおりの置き方になった写真立てに目を向ける。
そこには少し前の私と祐巳がいる。
ずっと伏せて置いていたけれど昨日祐巳に気付かれる前にこっそり立てて、そのままになっていた。

手に取って写真を見つめる。
涙は出なかった。
私は写真立てを机の上にそっと戻すと、ベッドにごろんと転がった。
どこかに祐巳の気配が残っていないかとごろごろしてみる。

……バカみたい。





『みたいじゃなくて、バカなのよ』





ハッと目を開ける。
どうやらウトウトしていたらしい。
身体を起こしたところでノックが聞こえた。

祐巳を送っていった母が戻ったのだろうか。
私はベッドから降り、服装と髪を整えながら返事をした。
すると、

「お姉さま。祐巳です」

扉の向こうから信じられない声が聞こえてきた。
慌てて扉を開くと、そこに帰ったはずの祐巳が立っている。

「……祐巳。……どうして?」
「しばらくこちらでお世話になりたいと思いまして」

何を言っているのだろうこの子は。
冗談を言う為にわざわざ戻ってきたのだろうか。
私は自分を落ち着かせようと、わざとそんな事を考えた。

「でも、さっき家に帰るって……、お母さまが送っていったじゃない」
「小母さまにお願いして、うちの両親を説得しに行っていたんです」

……祐巳。
あなた自分が何をしてしまったか分かっているの?
せっかく私から逃れられたのに、バカね。

太陽が自らこの手の中に戻ってきた。
輝きを無邪気に振りまきながら。

「私に黙って決めたのね?」

もしも相談されていたらきっと断っていた。
なけなしの理性を振り絞り、祐巳を解放していたはずだ。

「勝手な事をしてすみませんでした。でも、私は祥子さまのお傍にいたかったんです。……あの、ご迷惑でしたか?」

けれどもう無理だ。
この子を遠ざける事なんて、もう私にはできない。

私が黙り込んでいると、怒っていると勘違いしたのか祐巳はおどおどしはじめた。
あいかわらず落ち着きがない。
バカね。迷惑だなんて思うわけがないのに。

「祐巳。ありがとう」
「いいえ。私がお姉さまのお傍にいたかっただけですから」

人の気も知らずに可愛らしいことを言ってくれる。
つい、からかいたくなった。

「じゃあ、今夜も一緒に眠る?」
「――っ!?」

どうやら私は墓穴を掘ってしまったようだ。
そんな顔されたら冗談にできないじゃないの。
祐巳のバカ。





私と祐巳、そして母の三人で夕飯を食べていると、祐巳が話しかけてきた。

「お姉さま。このアスパラガスとっても美味しいですね」
「え?……えぇ、そうね」

なぜ急にアスパラガスについて言及してきたのか分からなかった。
レタスの陰に潜ませたアスパラガスは祐巳の席からは見えないはず。

「うちでは炒めて食べる事が多いんですけど、こうしてサラダで食べるのも美味しいですよね」
「……そうね」

尚もアスパラガス話をつづける祐巳。
不審に思った私がさりげなく母の方に視線を向けると、ワクワクした顔をしていた。
さっきから妙に母と祐巳がアイコンタクトをしていると思っていたけれど……そういう事か。
なんて余計な真似を。

「そういえば、夏に別荘へお邪魔させていただいた時、私が持っていったお弁当を車の中で一緒に食べましたよねー。あの時は嬉しかったなぁ」

……くっ!
食べればいいのでしょう食べれば!
だいたい何なの!? アスパラガスの先っぽにある、あのふにふにした部分は!?
ああいうところが気に入らないのよ。
もっとしゃっきりしていれば私だって、食べようかなーと思わなくもないのよ。

「……もぐ……もぐ……」

歓喜する母とやり遂げた顔の祐巳が腹立たしい。
なにより、二人だけが楽しそうにしているのが癪に障る。

二人はまたアイコンタクトで語り合っている。
けっきょく私はその輪の中には入れてもらえなかった。




食後、祐巳と一緒に部屋に戻ってきても私の機嫌は悪いままだった。
気付いているものの、機嫌を悪くした原因にも思い当たっているらしい祐巳はヘラヘラ笑ってごまかそうとした。

「どうせお母さまに余計な事を頼まれたのでしょう? 大人しく白状なさい祐巳」
「な、何の事でしょう? 私にはさっぱりですお姉さま」

私から思いきり目を逸らす祐巳。
この期に及んでまだ白を切るつもりらしい。
嘘なんてつけないくせに生意気な。

「そういうセリフは私の目を見ておっしゃい」

祐巳の腕を引っ張って無理やり視線を合わせる。
この時、私はどんな言葉を期待していたのだろう。
「もうしませんから赦してください」だろうか。
それとも「小母さまに頼まれて断れなかったんです」だろうか。

いや私は、祐巳が私に隠している事をすべて話してくれるのを期待していたのだ。
けれど祐巳は、睨み上げる私に苦笑しながらこう言った。

「確かに私は小母さまに、ある事を頼まれました。でもその内容を言うわけにはいかないんです。秘密だって約束しましたから。……ごめんなさいお姉さま」

祐巳は母との約束を守った。
私ではなく、祐巳は母との約束の方を大事にしたのだ。

私は掴んでいた祐巳の腕を解放すると、部屋の奥へと逃げた。
ショックを受けた顔を見られたくなかった。
それなのに私の背後を祐巳がとことことついてくる。
人の気も知らないで……!

「そんなにお母さまと仲が良いなら、私じゃなくてお母さまと一緒にいればいいじゃない」

ふいに怒りがこみ上げてきて、私は普段なら絶対に言わないような事を口走っていた。
みっともない。
何を言っているのだ私は。
頭の片隅にある、冷静な部分ではそう思っている。
けれど止められない。感情のコントロールが利かない。

「寝る時だって、私じゃなくてお母さまと寝ればいいじゃない」

祐巳は呆れているだろう。
そう思っていたのだけれど……
私の言葉に驚いていた祐巳は、その後どういうわけか泣きそうな顔になった。

「嫌です……」

小さな声だったけれど、祐巳ははっきりと言った。
こんな顔をさせたいわけじゃない。
もうやめなければ。
そう思うのに私の口は性懲りもなく言葉を吐き出す。

「どうして? 祐巳はお母さまと仲が良いのでしょう? だったらいいじゃないの」

意地の悪い言い方だ。
それでも祐巳はめげなかった。

「お姉さまと一緒がいいです……」

言葉に詰まった私に祐巳は追い討ちをかける。

「お姉さまと一緒に寝たいです……」

言うだけ言うと祐巳は顔を真っ赤にしてうつむいた。
うつむくだけでは足りないと感じたのか、そのうち両手で顔を隠してしまった。

……祐巳のバカ。
もう本当にどうなっても知らないから。




「今夜は茶色で寝ましょう」
「よろしいんですか?」

遠慮がちに聞く祐巳に、私は怒った顔をつくって言い返す。

「……祐巳はまた私がみっともない姿を曝すと思っているのね」
「ち、違いますよ! お正月にお邪魔した時に、真っ暗な方が眠りやすいっておっしゃっていたから……。それに、みっともないなんて、そんな事ないです!」

一生懸命に言う祐巳が可愛くて、つい笑ってしまった。
からかわれたと気付いて祐巳は怒ったけれど、その顔も愛らしくてまた笑ってしまう。

――祐巳を誰にも渡したくない。

すでに犧Fだけ瓩箸いΨ茲畛は私の頭の中から抹消されていた。
どこかで警鐘が鳴り響いている。
「気付け」と誰かが叫んでいる。
私は耳を塞いだ。
目の前にいる祐巳の声だけ聞こえればそれでいいのだから。

今夜も祐巳の胸の中で私は眠る。
明日も明後日も、私が私である限りそれはつづいていく。

――誰にも渡さない。

この身が灰になるその日まで、太陽は私だけのものだ。






『いいえ。わたくしのものよ』







bqex > さっちゃん編、ソフトなホラー展開ですね。ドキドキ。 (No.20390 2011-12-22 12:26:01)
くま一号 > 普通に祥子さまなのに外見がロリさっちゃんだと思うとめっちゃかわいい…… (No.20393 2011-12-22 18:19:41)
杏鴉 > コメントありがとうございますbqexさま。ホラーっぽいですか?自分では意識していなかったので、なんだか新鮮です。 (No.20396 2011-12-23 17:15:35)
杏鴉 > コメントありがとうございます、くま一号さま。今の祥子さまは鵜沢美冬さんにハンカチを貸してあげた頃くらいの見た目ですからね^^ (No.20397 2011-12-23 17:20:37)
BM > 祥子様の中のもう一人の祥子様…どんな感じで話が続くのか楽しみにしてます。 (No.20524 2012-03-17 13:03:18)
杏鴉 > コメントありがとうございますBMさま。楽しみと言っていただけて嬉しいです。……続きはまだ先になりそうです、すいません(汗) (No.20549 2012-04-15 13:13:48)

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