がちゃS・ぷち
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No.3175
作者:杏鴉
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2010-05-22 23:51:08
萌えた:4
笑った:3
感動だ:1
『めぐりあうわたしたち』
『藤堂さんに古手さんのセリフを言わせてみる』シリーズその2
これは『ひぐらしのなく頃に 綿流し編』とのクロスオーバーとなっております。
本家ひぐらしのような惨劇は起こりません。しかし無駄にネタバレしております。
そしてある人物の設定が、かなりおかしなことになっています。
諸々ご注意くださいませ。
【No:2386】→【No:2394】→【No:2398】→【No:2400】→【No:2428】→【No:2576】→これ。
またこのお店に来ることになるなんて思わなかったな……。
私は数日ぶりにそのお店、エンジェルモートの看板を見上げていた。
目のやり場に困るファンタジスタな制服姿のウェイトレスさんが歩き回っているこのお店に、私が足を運んだ理由はひとつ。
細川可南子さんからの手紙を読んだからだ。
手紙に書かれていたのは、次のような内容だった――。
エンジェルモートではデザートフェスタ≠ニ呼ばれる新しいデザートのお披露目会が定期的に催されるそうだ。そしてその会では、無料で新作デザートが食べ放題なのだという。
そしてここからが最重要ポイント。
細川可南子さんは、いつも姉(祥子さま)がお世話になっているお礼に、私をそのデザートフェスタに招待したいと、こう書いてあったのだ。
エンジェルモートのデザートの美味しさはすでに体験済みだ。
あんなデザートが無料で食べ放題だなんて……。なんてパラダイス。
この甘いもの大好き福沢祐巳が、そんなまたとない機会を逃すと思うてか!?
行くぜエンジェルモート!!
たとえ父親が血反吐を吐いてぶっ倒れようともこの福沢は止められぬぞっ!!
昨日手紙を読んだ直後の私は、嬉しさのあまり取り返しのつかない喜び方をしてしまった。
私の魂の叫びを聞きつけた祐麒が何事かと部屋に飛び込んできたくらいだ。
ちなみに、乙女の部屋にノックもせず入ってきた祐麒には、しかるべき制裁を加えておいた。
「デザートデザート♪なぁにが出るのっかな〜♪」
浮かれている私は謎の歌を口ずさみながら、足どりも軽くエンジェルモートの入り口へと向かった。
するとそこには、あまりお近づきにはなりたくない感じの男の人たちが十人くらいたむろしていた。
入店待ちをしているのかと思ってしばらくその人たちの後ろに立っていたのだけれど、彼らはいっこうにお店に入る気配がなかった。
私は痺れを切らして「すいません。デザートが呼んでいるので」と彼らの間をすり抜けて入り口に行こうとした。
「お嬢さん。エンジェルモートへ行くなりか?」
「は、はい……」
「本日は特別デー。チケットがない者は入店できないにゃりよ」
「ご親切にどうも。でもチケットなら持っていますから」
手紙に同封されていたチケットを取り出す。
途端に彼らの目の色が変わった。その時になってようやく私は彼らが親切で声をかけてきたわけではないことに気付く。
私の中の小動物的危機察知能力が警鐘を鳴らしている。早くここから逃げなければ。
私は全力で駆け出した。後ろで何か叫んでいるのが聞こえたがさすがに振り返れなかった。
これは後で知ったのだけれど、デザートフェスタのチケットは1枚で4人まで入店できるシステムになっていた。
彼らは私のように定員に満たない人数で訪れた人のおこぼれにあずかろうとしていたコバンザメさんだったのだ。
そうとは知らないこの時の私は、彼らのただならぬ様子が怖くて必死で店の中に駆け込んだ。
「いらっしゃいませ。エンジェルモートへようこそ。本日はデザートフェスタにつき、チケットをお持ちのお客さまのみの貸し切りとなっております」
ガラス扉を開けると、ヒンヤリした空気と店員さんの笑顔が私を迎えてくれた。
背後をチラリと窺うと、ガラス扉の向こう側で何人もの男の人たちが恨めしそうに私を見ていた。
絶対に出たくない。帰りはぜひ裏口の場所を教えてもらおう。
チケットを渡し、名簿に名前を記入した私はボックス席に案内された。
きょろきょろ周囲を見回してみたけれど、祥子さまらしきウェイトレスさんの姿はない。
奥にいるのか、それともまだ勤務時間ではないのだろうか。
……なんだか急に心細くなってきた。
周りには外にいた人たちと似たり寄ったりの男の人たちがボックス席にぎゅうぎゅう詰めになって、可愛らしいデザートを貪っている。
明らかに私だけが浮いていた。私は縮こまって祥子さまが来てくれるのを今か今かと待った。
「お待たせいたしました〜。夏の新作デザートです。ご試食のうえ、こちらのアンケート用紙にご記入願います」
「は〜い☆」
ファンタジスタなお姉さんと共に現れた色とりどりのデザートに、私のテンションは一気にアップした。
次々とテーブルに並んでいくデザートたちを私はひとつずつ目で追いかける。
「ごゆっくりどうぞ」
「はい!いただきます!」
うわぁ、美味しそう。いや、絶対に美味しいよこれ。
夏向けのデザートだけあってフルーツをたっぷり入れた爽やかな味のものが多い。かといってそればっかりでもない。
カカオの香り漂う濃厚なチョコレートソースを、盛りに盛った生クリームの上にこんなにも繊細かつ大胆にかけるなんて……分かってる!このお店のデザート担当の人は分かってるよ!
いくら夏といえど、食べるのは冷房の効いた店内。時にはこってりしたデザートだって食べたいと思うのが真の甘いもの好きってものだ。
私がスプーンを握りしめて深く感動していると、さっきとは別のウェイトレスさんが新しいデザートを持ってきてくれた。
「お待たせいたしました。次のデザートでございます」
ここはパラダイスだ。
存分に幸せを噛みしめていた私だったが、配膳してくれているウェイトレスさんの姿を見てハッと思い出す。
――祥子さまはどこにいるんだろう。
今日ここに来たのはデザートフェスタに参加する為だけじゃない。祥子さまに会う為でもあったのに。何やってるんだ私。
甘いものなんかに心を奪われて目的を忘れるなんて。こんな甘いものなんかに……こんな、いい匂いがして美味しい素敵な甘いものなんかに……!
あぁ、こんな優しい味のするブラマンジェなんかに……っ!ミルクのいい香りなんて振りまいちゃって、このブラマンジェめっ!美味しいじゃないか!
着々と器を空にしつつある私の頭上から、小さな笑い声が聞こえてきた。
見上げると、まだ配膳中だったウェイトレスさんと目が合った。
「失礼いたしました。とても美味しそうに召し上がっていらっしゃるので、つい」
そんなに、がつがつしてたのかと私は恥ずかしくなった。
無意味にスプーンをいじって時間を稼ぐ私。このウェイトレスさんが立ち去るまでは、デザートに手を伸ばすのはやめておこう。
食べるのをストップした私は自然と祥子さまのことを考え、ようやく気付く。
そうだ。このウェイトレスさんに聞けばいいんじゃないか。
「あの、すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが」
「はい。何でしょうか?」
「今日は小笠――じゃなかった、細川さんはいらっしゃらないんですか?」
「……細川さん、ですか?」
「はい。細川カナコさんです。私、彼女に招待していただいたので、もしいらっしゃればお礼をと思いまして」
「そうだったんですか。細川さんならずっとホールに出ているはずですよ。呼んできましょうか?」
「いえ!お仕事の邪魔をしてはいけないので、けっこうです」
気を遣ってくれたウェイトレスさんにお礼を言い、私はまたデザートに手を伸ばした。
ケーキを頬張りながら、うろうろと視線をさ迷わせる。やっぱり祥子さまは見当たらない。
とはいえ、ここはボックス席だから店内全体を見渡せるわけじゃないし、今日は人も多いからなかなか見つけられないのも仕方がないだろう。
ここでのんびりデザートを食べていれば、そのうち目の前を通ってくれることもあるかもしれない。
お互い店内にいるんだからいずれ会えるだろう。この時の私はそう信じて疑わなかった。
――突然、ガシャンという大きな音が店内に響いた。
音のした方を見ると、転んでしまったのか髪の長いウェイトレスさんが床に膝をつき、運んでいたのであろうデザートが派手にひっくり返っていた。……お客さんの上に。
生クリームが見事にお客さんのジーンズに直撃している。なんてもったいない!じゃなくて気の毒に。
「……申しわけありませんでした。お怪我はございませんでしょうか」
「何てことをするでおじゃるか〜!!我輩のズボンがベトベトになってしまったにゃりよ〜!」
冷静に謝罪するウェイトレスさんに対し、お客さんはおかしなしゃべり方で文句をいっている。
あんな状態じゃあ帰るのも大変だろうな。でも、あのお客さん……どうしてあんなに嬉しそうなんだろう?
「これは責任をとって綺麗にフキフキしてもらわないと、我輩帰れないにゃりっ!」
「……」
周りのお客さんたちが「そーだ!そーだ!」と囃し立てる。なんだか妙な雰囲気だ。
それにフキフキって、あの生クリームのついた股の部分を……?
いくらウェイトレスさんのミスだからって、女の子相手にそれはちょっと酷くないだろうか。
髪の長いウェイトレスさんは無言で立ち尽くしている。こちらには背中を向けているから、その表情は分からないけれど、たぶん困り果てているのだろう。なんだか可哀想になってきた。
「あーあ。やられちゃったかぁ」
近くにいた別のウェイトレスさんが同情を含んだつぶやきをもらすのを私は聞き逃さなかった。
どういうことか問うと、そのウェイトレスさんはそっと耳打ちしてくれた。
「自分で足を引っかけてきて、ああやって服を汚させて絡んでくるお客が多いんです。今日みたいなイベントの日は特に無茶をする人が多くて……。
慣れている子は上手くかわすんですけど、彼女は入って間もないですからたぶん狙われてたんでしょうね」
「えっ!?それじゃあ、わざとなんですか!?」
酷すぎる。
私の憤りをよそに、店内では「フーキフキ!」と無責任なお客たちによるフキフキコールが巻き起こっていた。
髪の長いウェイトレスさんはおしぼりを握りしめて震えている。
「なんとかならないんですか?」
「うちも客商売ですから、なかなか難しいんですよ……」
「そんな……っ!」
今、窮地に立たされている彼女を私は知っていた。
といっても、今日このお店で顔を合わせただけの淡い関係だ。名前も知らない。
でも知っている人だ。
デザートを食べながら祥子さまの姿を捜してきょろきょろしていた私は、なぜか彼女とよく目が合った。
そのたびに彼女は、とても営業用とは思えない微笑みを私にくれた。
祥子さまにも負けないくらい綺麗な黒髪を持つ、とても背の高い美人さんで。
初めは照れくさくてぎこちなく視線を逸らしていたのだけれど、そのうちそれは失礼な気がしてきて会釈を返すようになった。
そうしたら彼女が嬉しそうに笑ってくれたから、私も「えへへ」と笑いかけるようにした。
彼女は私のテーブルに配膳に来ることはなかったから、言葉を交わしたこともない。声なんて、ついさっき初めて聞いた。
でも私たちは知り合いだった。
彼女の足を引っかけた男の人はふんぞり返り、生クリームのついた股をこれ見よがしに突き出している。
正直、怖かった。かかわりたくないと思った。でも――
「ほらほら、何をぼさっとしているでおじゃるか。さっさとフキフキするにゃりよ〜」
「やめてください。そこまでさせることないじゃないですか」
私は震える彼女を守るように、男の人との間に割って入った。
この男の人はお客さんだから、彼女も他のウェイトレスさんも面と向かって抗議することが出来ないでいる。
でも私なら問題ない。私だってこのお店の客なのだから。
客が客に文句を言ったところで、お店やウェイトレスさんたちには迷惑はかからないはずだ。
「な、なんでおじゃる!?我輩は粗相をされた被害者にゃりんよ!?」
「わざと足を引っかけたんでしょう?」
「ななな何を証拠にぃぃ!?隠しカメラで決定的瞬間を撮影していたとでも言うでおじゃるかぁあぁぁっ!?」
「そんなことはしてませんけど……」
「なら証拠はないにゃりね!証拠もないくせに言いがかりをつけるとは、なんて不届きなマドモアゼル!これは名誉毀損で訴えられても仕方がないでおじゃるよっ!?」
「そ、そんな……」
話がおかしな方向に転がっているのは分かっていたけれど、私にはそれを止めるすべがなかった。
何も言い返せないでいる私を見て男の人がニヤリと笑う。……いやらしい笑い方だった。
「よく見ればなかなか良いマドモアゼルにゃりね。ツインテールというのもポイントが高いでおじゃるよ〜」
『良いマドモアゼル』ってなんだ。
心の中ではツッコミながらも、身体は恐怖に竦んでいた。この人は何を言う気なんだろう。
「決めたでおじゃる!我輩、マドモアゼルにフキフキしてもらうことにしたにゃり〜」
「い、嫌ですよそんなことっ!」
「なら訴えるにゃり」
「……っ!」
「それにマドモアゼルがフキフキしてくれるなら、そのウェイトレスの粗相を見逃してやってもいいでおじゃる」
つまり彼女の代わりに、私に拭けと言っているのだこの人は。
どうしよう……。まさかこんなことになるなんて思わなかった。
再び店内にフキフキコールが巻き起こるのを、私は気が遠くなりそうな心持ちで聞いていた。
「さぁ、早くするでおじゃる!」
男の人はふんぞり返ったまま、私におしぼりを投げて寄こす。
反射的にキャッチしてしまった私は途方にくれる。これで拭けと……?
もう引っ込みがつかない状況なのは理解できているけれど、それと決心がつくというのは別だ。
「何もたもたしてるでおじゃるか!さっさとこっちへ――」
「汚い手でその人に触れるな」
痺れを切らして私に手を伸ばしてきた男の人に、ムチで打つような鋭い言葉がなげかけられた。
その声は私のすぐ後ろからした。この男の人に絡まれていた彼女だった。
ついさっきまで震えていたとは思えない実に堂々とした様子で、男の人を睨みつけている。
「その人は、うす汚い男なんかが触れていい人ではありません。あなたのような人は特に」
「こっ、このウェイトレス!客に向かってなんて言い草にゃりか!?許せないでおじゃるっ!店長を呼ぶにゃりん!!」
「誰を呼ぼうと、この人には指一本触れさせません。……私がそれを許さない」
私の肩を引き、後ろに下がらせようとする彼女の手を思わず掴んだ。
客同士のいざこざと、客と店員のいざこざでは話がまったく違う。へたをすれば店員はクビだ。
ダメだよ。私なら平気だから。
首を横に振って止めようとしたけれど、意外にも力強い彼女の手によって私は男の人から遠ざけられた。
私の目の前に白い背中が立ち塞がっている。
男の人がまたわけの分からないことを喚いたけれど、私にその言葉がぶつかることはないし、男の人の視線が私に届くこともない。私に見えるのは、私を守ろうとする綺麗な背中だけだった。
私、何やってるんだろう。助けに入るつもりが、逆に助けられてる……。
それだけじゃない。私がしゃしゃり出たことで、かえって事態を悪化させてしまった。
考えもなく行動して迷惑をかけるなんて、最悪じゃないか。
これで彼女がクビにでもなってしまったら……、間違いなく私のせいだ。
「……っく……うっ、うぅぅ……」
責任の重さに私はつい嗚咽をもらしてしまう。
いったん泣いていることを自覚してしまったら、もう抑えがきかない。とうとう私は声を上げて泣き出してしまった。
みっともなくて、情けなくて、早く泣きやまなきゃと思えば思うほど、私の両目からは涙がぽろぽろと零れ落ちた。
あれほど騒がしかった店内が、しぃんとしている。いい年をして小さな子みたいに泣きじゃくる私に、みんな呆れているのだろう。うっすらと流れているポップなBGMが耳に痛かった。
「……い、い、いたいけな女子を泣かせるとは悪逆非道にも程があるなり!この卑劣漢っ!」
「いまどき貴重なツインテール女子になんてまねを!萌え道を逝く者の風上にもおけない男なりよっ!」
突然、向かいのボックス席にいたお客さんたちが立ち上がって叫びだした。「そーだ!そーだ!」と周囲からも怒りの声が上がる。
あれ?でも、さっきまであなた方も囃し立ててませんでしたっけ……?
素朴な疑問を抱きながら、私はぐしぐしと涙を拭う。
腑に落ちない気持ちでいっぱいの私を置いてきぼりに、怒りの声は店内中に広がっていった。
彼女と私にフキフキを強要した男の人は今や完全に悪者だ。同じボックス席に座っていた連れの人たちにまで見捨てられ、彼はエンジェルモートから強制退去となった。
去り際の「あいしゃるりたぁああぁあぁんっ!!」という叫び声が妙に印象に残っている。
自分の席に戻った私は落ち込みながらプリンを口に運んでいた。
男の人が強制退去させられた後、私を庇ってくれた彼女は何も言わずにお店の奥へと行ってしまった。
騒ぎを大きくしてしまった私に怒っているのかもしれない。
うつむいている私の目の端に、ウェイトレスさんの制服が入った。
また新しいデザートを持ってきてくれたのだろうか。さすがにこれ以上食べると晩御飯に差し支えそうだから断ろうと顔を上げると、そこにいたのは彼女だった。
別のテーブルで配膳を終えた後なのか、手にしたおぼんには何も乗っていない。
もしかしなくても、さっきのことを怒りにきたんだろうな……。
「あの、さっきは――」
「ごめんなさいっ」
「え?」
「余計な事をして、かえってあなたに迷惑をかけてしまいました。ごめんなさい」
「……」
彼女は私をジッと見つめている。かなり無に近い表情で。
うぅ。やっぱり怒ってる。
プリンのスプーンを握りしめながら縮こまっていると、急に彼女が吹き出した。
ぽかんと見上げる私の前で、彼女は口もとを押さえて必死に笑いを堪えているようだった。
「あの……?」
「すみません。でも、お礼を言いに来たのに謝られるとは思っていなかったもので」
「へ?お礼?じゃあ怒っていないんですか?」
首を傾げる私に、彼女は「怒るわけないじゃないですか」とはにかんだ微笑みをくれた。
一瞬、ドキッとなった。
自分の反応に戸惑い、私は視線をさ迷わせる。そんな挙動不審な私の頭上から、くすくす笑う声が降り注ぐ。
うぅ……。絶対変な子だって思われてるよ。
「私、あと少しで仕事が終わるんですけど、……待っていてもらえませんか」
「え?」
「さっきのお礼も兼ねて、ちょっとだけお話がしたいんです」
「あ。でも私、人と会わないといけなくて……」
正直、私も彼女ともう少し一緒にいたいと思い始めていた。
何を話せばいいのかはさっぱり分からなかったのだけれど。それでも、このまま会えなくなるのは嫌だなと思っていた。
しかし祥子さまを放っておいて彼女とおしゃべりするわけにもいかないだろう。
自分が今日ここへ来れたのは祥子さまがチケットを都合してくれたおかげなのだから。
――それにしても祥子さまはどこにいるんだろう。
ホールに出ていると教えてもらったけれど、未だにそれらしき人を見かけていない。
さっきの騒ぎの時だって現れなかった。私が巻き込まれてるって知っていたら、きっと駆けつけてくれたと思うんだけどなぁ。
ひょっとして今日ここにいるというのはあのウェイトレスさんの勘違いで、本当はお休みなのだろうか。
「小笠原祥子なら、ここにはいませんよ」
「……へ?」
祥子さまを呼び捨て!?……いや、今はそこを気にしている場合じゃないな。
この人はどうして祥子さまの名前を知っているんだろう?
それにどうして私が祥子さまに会おうとしていることを知ってるの?
「そんなに驚かないでくださいよ。今日は私からの招待を受けてここへいらしてくださったんでしょう?」
「……はい?」
「初めまして祐巳さん。細川可南子です」
彼女は胸に付けた『細川』という名札を、固まっている私に指し示した。
イタズラが成功した子供のような目で彼女は私を見ている。
その状態が十秒ほど経った頃だろうか……、
「えぇーっ!?」
――私の間抜けな叫び声が店内中に響きわたった。
(コメント)
reaall >ひぐらし読んだけど、途中から恐くて読むのやめた覚えがあります。(No.18599 2010-05-23 22:38:54)
杏鴉 >コメントありがとうございます、reaallさま。ひぐらしは最後の方のエピソードまで読むと恐くなくなりますよ。とはいえ…、夜中に一人でひぐらしのゲームをプレイしていて、激しく後悔したことはありますけど(苦笑)。(No.18600 2010-05-24 19:14:23)
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