がちゃS・ぷち

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No.3860
作者:奏葵
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2016-07-02 21:26:36
萌えた:2
笑った:0
感動だ:16

『新しい一歩明日に』

マリア様がみてるif
  太陽と聖女


【No:3853】【No:3854】【No:3856】【No:3857】【No:3858】【No:3859】の続きです。


マリア祭が終わりもう少しで2週間が経とうとしていた。
少しは準備や仕事をした聖だったがマリア祭が終わるとまたお御堂通いを再開した。


聖が来ない間に少し変化があった。
メンバーに志摩子が加わったのだ。
志摩子に祐巳ちゃんのようにちゃん付けしないのは出会った時の印象のせいだろう。
志摩子も栞と同じく熱心なクリスチャンでお祈りも真剣だ。
ただ以前聖が志摩子を出会った時は違う印象を受けた。



あれは祐巳ちゃんと出会って間もない頃だったと思う。
お御堂でお祈りをしていた志摩子と出会った。
出会ったといっても目が合っただけだが。
その時感じたのが祐巳ちゃんに出会う前の自分によく似てる。
まるで鏡に映したような感じ。

その志摩子も今は変わった。
中等部のほうが基本的には早く終わる為、2人は先に来ている。
当然お祈りも先に終わり聖と栞を待つ。
待っている間2人がいい雰囲気でいちゃいちゃしてたのに少しばかり嫉妬した聖であった。

羨ましかったのかも知れない。あんな風に変わり、素直に感情を出すようになった志摩子が。

そしてあの志摩子をあんなにも変えた祐巳ちゃんに。
祐巳ちゃんに持つ感情は栞とは別の感情だ。
敬愛と言ってもいいだろう。
祐巳ちゃんはどこまでもまっすぐで素直だ。
本人は気づいてないが人を良い方向に導く力がある。
そんな祐巳ちゃんに憧れ、なれないと分かっていながら彼女になりたいとさえ思う自分がいる。

自分はどこまでも中途半端だ。



今日は土曜日で半日だ。
祐巳ちゃんと志摩子は一緒に遊びに行くとかで先に帰ってしまった。
栞も手伝いがあるとかでお御堂に残るらしい。

私はどうしようか悩んでいた。
今日のことではない。栞とのこれからのことを。
最初はお姉さまに相談しようと思ったがやめた。何か違うと思ったからだ。
考えがまとまらず少し歩くことにした。
普段乗っているバス停を過ぎ、さらに歩いていく。

「あら、あなたは」

「え?」

歩いていると突然声を掛けられた。

「この間はありがとう」

確かゴールデンウィークにに祐巳ちゃんが荷物を持ったお婆さんだ。
今は庭の掃除をしていたようだ。

「いえ、お礼はもう1人の娘に。私は手伝っただけですから」

「ええ、それでも助かったのは事実、だからありがとう」

「はい、どういたしまして」

不思議な人だなと思いつつお婆さんをみた。

「そうだ、よければお茶をしましょう。時間はあるかしら?」

「ええ、大丈夫ですよ」

前回に続き2度も断るのは失礼かなと思い今度は承諾した。

「それじゃあどうぞ中へ」

「失礼します」

通されたのは畳ばりのリビングだ。
漆喰の壁の渋い日本間だ。そこにテーブルセットが置かれ、窓にはレースのカーテンが掛けられている。

「ミルクティーでいいかしら」

「あ、はい」

「好きな椅子に座って待っててね」

「はい」

そう言ってお茶の準備をしだした。
先に火を入れていたのだろうかすぐにケトルが沸きだした。

「どうぞ」

「いただきます」

「丁度頂き物だけどメープルパーラーのクッキーがあるの。これもどうぞ」

「重ね重ねありがとうございます」

頂いたミルクティーを一口含む。

「美味しいです」

「ふふふ、ありがとう。そういえば自己紹介がまだだったわね。私は池上弓子と言うの」

「佐藤聖です。弓子さん、ですか」

「ええ、あの時あなたが祐巳ちゃんって言うものだからびっくりしちゃって」

コロコロと可笑しそうに笑う弓子さん。
そうかあの時のびっくりした顔はそういうことだったのか。

「ふふふ、偶然もあるんですね」

「ええ、それであの祐巳ちゃんは元気?」

「はい、いつも元気いっぱいですよ。今日は別の友達と遊びに行ってますが」

「そう、でも懐かしいわねその制服。私も昔着ていたのよ」

「先輩でしたか。じゃあ弓子さまと呼ぶべきですかね」

「ふふ。もう勘弁して。学校だけよ、その呼び方」

「あはは、わかっています茶化しただけです」


その後も和やかに時間が過ぎていき、そろそろお暇しようかなと思った時だった。

「聖さんは何を悩んでらっしゃるの?」

「えっ!?」

急な切り出しに少し動揺が入った。

「あなたを見かけた時のあの顔は何かを悩んでる顔だったから」

「あ、はい。それは・・・」

「・・・」

「・・・」


無理には聞き出そうとはしてこず、こちらを見てくる。
聞いてもらうのもいいかな、なんて思い切り出した。

「1人の下級生とのこれからについて悩んでいるんです」

「その方は妹(プティ・スール)?」

「いえ違います。何と言うか・・・。縛られたくないんです。リリアンの伝統とかそういったものに」

「・・・」

私の愚痴ともいえる発言を静かに聞いてくれる弓子さん。

「すいません、なんかまだ考えがまとまっていなくて」

「いえ、いいのよこちらから聞いたのだし。ただ・・・」

「ただ?」

「聖さんはもしかしたら一番リリアンに縛られているのかもしれないわね」

「え・・・」

「本当に縛られていない人はそんなことは考えないものよ、ありのままを素直に受け入れる」

「・・・」

「そしてそのリリアンの縛りすら自身の楽しみに変える、そうあなたの友人のように」

「あ・・・、祐巳ちゃん・・・」

「そうね、多分あの娘そんなタイプね」

「・・・」

「あと、これは老人の戯言よ」

「何でしょう?」

「姉妹制度はリリアン特有のものよ。リリアンにしか存在しない伝統」

「そうですね」

「その経験は長い人生で大きな思い出となるしこれからの糧にもなるわ」

「はい」

「聖さんは難しく考えすぎてる。もっともっと人生を楽しみなさい。これが私から聖さんに送れる言葉かしら」

「・・・ありがとうございます」

自分が気づいていないものを気づかされた。

「今日は一緒にお茶を飲めて嬉しかったわ」

「こちらこそありがとうございました」

「今度はその娘と祐巳さんを連れてきてね」

「ええ、誘ってきますよ」

玄関まで見送ってもらい

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

リリアン風の挨拶で締めた。
そこには以前のような拒絶感はなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



今日はシスターの手伝いで少し遅くなった。
土曜日と言うこともあり普段の日よりは幾らか早いが。
祐巳と志摩子さんは一緒に帰った。

聖さまは結局来なかった。
最近1人でいるときは悩んでいる感じだったので心配になってくる。
近頃は暇さえあればよく聖さまのことを考えるようになった。
現に今も考えているぐらいなのだから。
帰りの支度をし、お御堂を出る為出入り口に向かう。
そこに人影があるのに気づいた。
聖さまの姉(グラン・スール)である白薔薇さまだ。

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

どうやら私を待っていたらしい。あちらから声を掛けてきた。

「今、いいかしら?」

この状態で断れる人はそうそういないだろう。

「はい、かまいませんよ」

話をするため場所を移した。
お御堂裏に移動し白薔薇さまが切り出した。

「いきなりごめんなさいね」

「いえ、大丈夫ですよ」

「聖のことで聞きたいことがあって」

聖さまのことだろうとは予想はしていた。

「何でしょうか?」

「あなたの気持ちを知りたくて」

「私のですか?」

「ええ、久保栞さんの佐藤聖に対しての気持ち」

「それは妹(プティ・スール)云々の・・・」

「いえ、あなたが持つ率直な気持ちを教えてほしいの」

私の聖さまへの気持ち。

「好きです」

「そう」

やっぱり、といった顔をした白薔薇さま。

「ただ・・・」

「ただ?」

「私はもともとシスター志望でした」

「えっ!?」

「でも今は違ってきています」

「どういうこと?」

「祐巳とそれから聖さまとの出会いです」

「話してくれる?」

「はい。私は小さい頃に両親を亡くしました。」

「・・・」

この切り出しには流石の白薔薇さまも動揺している。
そのまま続けることにした。

「すごい喪失感と悲しみでした。その状態から救ってくれたのが祐巳の笑顔でした。
当時は周りの人は気を使ってくれるのはいいのですがその状態が続くと疎外感を覚えてくるんです。
すると自分の居場所はここにはないのではないか?なんてことを小さいなりに思ったものです。」

「・・・」

「でも祐巳は違いました。あのひまわりのような笑顔で私を引っ張って行ってくれました。
祐巳といると心が安らぎ落ち着きます。
あの娘との出会いがなければ私は視野や考え方は狭いままで聖さまとシスターの狭間で悩んでたと思います」

「そう」

「高等部に入ってから聖さまと出会いました。
最初は不思議な方だなと思いましたが、聖さまといるうちに惹かれていくのを感じました。
あの方は人前では大雑把に見せますが本当は凄く繊細な方」

「ええ、そうね」

白薔薇さまも同意した。

「一緒にいて支えたいと思いました。その時だと思いますシスターへの拘りがなくなったのわ」

「聖を好きになった時か・・・」

「はい、それとたぶんですが聖さまも祐巳との出会いがなかったら今の聖さまは無いと思います」

「それについては私も同意見ね。ねえ栞さん?」

「はい、なんでしょうか?」

「出来れば聖が答えを出すのを待ってほしいの。我ながら虫のいい話だとは思うのだけど」

「はいもともとそのつもりです。それに・・・」

「それに?」

「聖さまがどんな答えを持ってきても受け入れるつもりです。ゆっくりと一歩一歩進んでいけばいいと思っているので」

「できた娘ね、栞さんは聖にはもったいないわね」

「ふふふ、そんなことないですよ」

「さて、話に付き合ってくれてありがとう。そろそろ帰りましょうか?」

「そうですね」


話が終わりともに歩き出す2人。
マリア像にお祈りし銀杏並木を歩いていく。
もう少しで校門というところで白薔薇さまが口をひらいた。

「そういえば祐巳ちゃんなんだけど」

「はい、祐巳が何か?」

「栞さんは祐巳ちゃんを妹(プティ・スール)にするの?」

「たぶんしないと思います」

「なぜ?」

「私は祐巳からたくさんの笑顔を貰いました。
これからは不要というわけではありませんが私以上にあの娘の笑顔が必要な人がたぶんいると思うのです」

「その人を支えてほしいと?」

「はい。それに祐巳の出会いを邪魔したくないとも思っています。
私には私の出会いがあったようにあの娘にはあの娘の出会いがある」

「まあ、あの娘ならすぐに見つけそうな気もするわね」

「ふふ、そうですね」


校門に着いた。

「それじゃあ栞さん、ごきげんよう」

「ごきげんよう、白薔薇さま」




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